2023.06.01

【特集】もしかして尿もれ? #03

産婦人科医・高尾美穂先生/知っておきたい尿もれの基礎知識と対策

OTONA BODY BOOK 編集部

尿もれ特集#03からは、産婦人科医・高尾美穂先生が登場。まずは、尿もれの正しい知識を学んでいきましょう。加齢にともなって起こるからだの変化を理解したうえで、すぐにできる身近な対処法も教えていただきます。

*軽失禁・尿もれは、加齢や出産などにともなって「尿をしようとしていないタイミングで、膀胱から尿がもれてしまう」状態をさします。

出産や加齢が
いちばんの要因

「くしゃみをしたとき、自然と尿がもれていた」「重たいものを持ったとき、もれた」。こんな経験をされている患者さんは少なくありません。

通常、膀胱にある程度の尿がたまると、脳からの指令で膀胱が収縮し、尿を押し出します。このとき、ふだんは尿道口を閉めている尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)が、尿道口をゆるめ、尿道から尿が排出されます。この尿道口が弱った状態のときに起こるのが、尿もれです。咳やくしゃみ、ジャンプした拍子など、おなかに腹圧がかかったときに尿道口が開いて、ついもれてしまうのです。これらは、尿もれのなかでも「腹圧性尿失禁」といわれるものです。

一方で、膀胱に「尿がたまっていないのに」突然激しい尿意をもよおし、トイレが間に合わないというケースもあります。これは「切迫性尿失禁」といって、膀胱が過剰に収縮する状態です。#01の「アンケート」で「水仕事をしているとき」「流れる水の音を聞いたとき」に、急に尿意に襲われるといった体験談がありましたが、それらが「切迫性尿失禁」にあたります。

さて、あなたの場合はどちらのタイプでしょうか。実際のところ更年期以降は、ふたつの失禁タイプの混合型が多いようです。そして原因もいくつかあって、これも複合的な場合が多いのが事実です。

原因のひとつは、妊娠・出産による骨盤底筋へのダメージ。出産後に尿もれがみられることもあるし、将来的に尿もれを起こす要因にもなります。さらに、更年期以降の女性でいえば、女性ホルモンの減少や加齢による影響も大きくなります。更年期では全身の筋肉量に関わる女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が急激に減少するため、骨盤底筋も弾力がなくなり薄くなってきます。すると膀胱の位置が下がり、尿道をしめつける力も弱くなってしまうのです。その結果、尿もれが起こるというわけです。

骨盤底筋【こつばんていきん】とは

骨盤内にある臓器(子宮、膀胱、直腸など)を支え、正しい位置に保つ筋肉。ハンモックのような形をしている。下のイラストを参照。
参考文献:『更年期の教科書』産婦人科医・高尾美穂著

骨盤底筋がゆるむと…
本来は骨盤底筋で支えられている膀胱の位置が下がり、尿道をしめつける力も弱くなります。この状態で咳、くしゃみ、笑う、重たいものを持ち上げる、などの動作をすると、おなかに強い圧(腹圧)がかかって、膀胱が圧迫され、尿がもれてしまいます。

肥満も尿もれの原因になります

尿もれの原因として見逃せないものに、「肥満」もあります。在宅勤務やオンラインでの買い物があたりまえになり、それ以前と比べると「家にいたまま」できることが、ぐんと増えました。ほとんどの方が、運動量そのものが減っているのではないでしょうか。かつてはそうでもなかったのに、コロナ禍以降に「太った」と感じている人は多いことでしょう。

太るとどうして尿もれにつながるのでしょうか。その理由は複合的ではありますが、膀胱や骨盤底筋の上に、“脂肪のついた”内臓が乗っているのを想像してみてください。重たさで、それを支える骨盤底筋に負荷がかかります。そのため、尿もれの症状が悪化すると考えると理解しやすいかもしれません。

家で「トイレをがまんする」のも、
ひとつのトレーニング

さて、人生100年時代だといわれますが、そう考えると、女性のからだが変化する過程で「みんながなっても不思議ではない」のが、尿もれです。あなただけではありません。そう思えば、少しは安心できるのではないでしょうか。

そして、「尿もれを完全になくす」ことをゴールにするのは、正直難しい。それよりも、「自分のしたい生活を妨げない」ことを目標にしてはいかがでしょう。

たとえば、アンケート結果の中にも多くあった「外出するのがおっくうになる」「旅行を躊躇する」といったご意見。尿もれを理由に、やりたいことをがまんするのは、ほんとうにもったいない。ですから、尿もれを完全になくすよりも、「したいこと」をがまんせずに「できる」生活を目指してほしいと思います。それには、「今起こっていることへの対策」と、「先を見据えた対策」の両方が必要です。

「今起こっていることへの対策」としては、吸水ショーツや尿もれパッドなど、さまざまな商品が出ているので、ぜひ取り入れて。また、肥満を自覚している人ならば、まずはそれを解消することから。くしゃみで尿もれを起こす人ならば、花粉症やアレルギーなど、くしゃみの原因に対して対策をする。まずは、そこから始めてみましょう。

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そして「先を見据えた対策」には、骨盤底筋を意識したエクササイズを(6月15日公開の尿もれ特集#05で詳しくご紹介)。エクササイズまでいかなくても、実は日常のちょっとした意識で、できる対策もあります。家にいる時間であれば、尿意を感じても「少しの間、トイレに行くのをがまんする」ことです。膀胱のまわりにも筋肉がありますが、トレーニングすることのできないタイプの筋肉です。「膀胱に尿をためておく(トイレをがまんする)」「そのあと、トイレで尿をしっかり出す」ということは、膀胱のまわりにある筋肉のトレーニングになり、膀胱の収縮を助け、尿もれ改善にもつながります。

また、尿もれを経験された方であれば、どんなときにもれやすいか、予想がつくことでしょう。そんなときは、その動作の前にキュっとしめることも有効です。膀胱そのものは意識しにくいので、「お尻の(穴の)ちょっと前をしめる」感覚でいいでしょう。ほかにも、高いところから飛び降りるとき、重いものを持ち上げるときなど、腹圧がかかる場合は、キュっとお尻をしめることを意識してみてください。

病院で薬を処方してもらったり、ひどい場合なら手術をするという方法もありますが、尿もれに対しての対処は、やっぱり早めからの対策を自分で行うことが第一です。そうしながら、もれる量が減る、回数が減っていく、などの推移を見ていきましょう。完全にゼロにならなくても、落ち込まないで。もとあった状態を100として、60になればとってもいい、40になったら最高、くらいに考えてはいかがでしょう。

次回、尿もれ特集#04では、アンケート時に回答者みなさんから寄せられた、尿もれに関する質問に、高尾美穂先生がお答えします

  • 高尾 美穂(たかお みほ)
  • 高尾 美穂(たかお みほ) 産婦人科医・医学博士・スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。産業医として内閣府男女共同参画局、人事局で職員研修を担当。 長年ヨガを愛好し多くのヨガインストラクターを指導。YouTube「高尾美穂からのリアルボイス」では毎日、女性のお悩みに答え、楽に生きられる考え方を配信している。 「ワコール フェムケア」サイト 監修 「高尾美穂オフィシャルサイト」
取材・文/おとなボディブック編集部
デザイン/日比野まり子