2023.04.20

【特集】みんなの睡眠事情大調査#04

睡眠研究の第一人者からのアドバイス<後編>/「昼寝」で仕事の効率化を!

医学博士 西野精治先生

――「眠れないことを深刻に考えすぎないで」という、睡眠研究の権威・西野精治先生の言葉が、おとな世代にはとても優しく勇気づけになった前回。そして、寝入りの90分を深く眠ることは、肌の修復や記憶の整理、感染症やがん予防につながるという最新研究結果も教えていただきました。では、質のいい90分を得るために、日常生活でどのような工夫をしていったらいいのでしょうか。

30分未満の睡眠をとることは、
仕事の効率アップ・ミス防止になる

欧米の調査では、男性より女性のほうが睡眠時間は20~40分ほど多いという結果が出ています。ところが、日本はその逆で女性が短いという結果が出ています。 更年期によるホルモンの影響ばかりでなく、家事や育児・介護、そして仕事と重なり、女性に負担がかかっていることは、見逃せない一因といえるでしょう。ですから、夫婦や家族、そして社会で協力して、女性の睡眠不足を解消していく必要があります

たとえば、こんな経験はありませんか。夫の帰宅前に早く眠りについたものの、ようやく眠ったころに帰ってきて、目が覚めてしまう…。入眠直後の90分が大事だとお伝えしましたが、これではいちばん大事な最初の睡眠時間を中断させてしまいます。もう一度眠ったとしても、成長ホルモンの分泌などはあまり期待できません。あとから帰ってくるほうは、先に寝ている人を起こさないようにすることはもちろん、寝ている妻に「飯はないか?」などと言うのは、やってはいけないことです。まあ、最近はさすがに減っているでしょうけれどね(笑)。

そして、日中に眠たくなったら、無理して起きているより、仮眠をとることをおすすめします

現実には、会社勤務中に「昼寝は難しい」という人もいることでしょう。でも、日中に30分未満の睡眠をとることは、仕事の効率アップ・ミス防止になるし、病気のリスクが下がることは、研究からもわかっています。ばりばり働いている管理職の中には、寝ずに働いてきたような人もいて、今さら睡眠の大切さを簡単に理解できないかもしれません。でも、働く人の睡眠を気遣うことは、健康を気遣うこと。健康を気遣うことは、結果的に会社の利益につながるのです。まずは経営者にこの考え方を浸透させ、「昼寝している人」=「怠けている人」のような認識を、変えていってほしいと思います。そして、ぜひ昼寝をしやすい職場環境を整えてほしいものです。

睡眠は眠っている以外の人生においても「ギフト」なのだ。『スタンフォード式 最高の睡眠』(西野精治)より

短期の海外滞在であれば、
無理して時差調整しないのも一案

私自身はといえば、睡眠12ヵ条に反するようですが、研究論文の締め切りがあったりすると思うように睡眠が取れず、寝る時間も不規則です。そんな中で実践しているのは、「眠れないときは無理に寝ようとせず、眠たいときは短く寝る」ということです。

年齢が上がるにともなって、まとまった時間寝ることができずに、途中で起きてしまうことも増えました。そんなときは、ベッドの中で眠れない時間を過ごすより、起き上がって何か作業をしたり、リラックスして過ごしたりして、眠くなったらまた寝る、というふうにしています。

また、海外出張も多く、時差による睡眠不足にも悩まされることもあります。出張先の仕事ですぐにいいパフォーマンスを出さないといけない場合などには、出発前に1日1時間ずつ現地の時間に近づけながら生活するという方法があります。ですが、7時間の時差であればその調整に7日程度かかりますので、現実には大変。なので、短期の滞在であれば、無理に現地時間に合わせないことが多くなりました。

その代わり、現地ではできるだけ休息を取るようにして、眠たいときには眠る。それから、慣れない油っぽいものを食べると胃酸が逆流したりして眠りの質を下げるので、控えておく。そんなふうに過ごしています。

基本的な知識をおさえつつも、自分なりの睡眠ノウハウをぜひ見つけてください。

超一流の人は、正しい情報収集と理解力を武器にする。(西野精治)より

――睡眠において大事なこと(#01 睡眠12ヵ条<前編>#02<後編>を参照)をおさえつつも、それができなかったときに、自分を責めない。ネガティブにとらえすぎない。そして眠くなったときに寝る。これを知っておくだけでも、気持ちが楽になる気がしませんか。おとな世代なら、人や情報に惑わされず、「自分にとってよい睡眠」を仕事と人生の武器にしたいものです。

  • 西野精治先生
  • <睡眠12ヵ条>の監修
    西野精治先生
    スタンフォード大学医学部精神科 教授
    睡眠・生体リズム研究所(SCNラボ)所長
    株式会社ブレインスリーブ 最高研究顧問
    医師 医学博士
    1955年大阪府生まれ。スタンフォード大学医学部精神科睡眠研究所へ留学時に、突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」の原因究明に全力を注ぎ、ヒトのナルコレプシーの主たる発生メカニズムを突き止めた。2007年、日本人として初めてスタンフォード大学医学部教授に就任。睡眠・覚醒のメカニズムを、分子・遺伝子レベルから個体レベルまで幅広い視野で研究している。
取材・文/おとなボディブック編集部
デザイン/日比野まり子
イメージ写真/Shutterstock.com