2022.01.12

【特集】更年期と睡眠の深い関係 #02

睡眠不足は肥満や肌荒れの原因に。さらに死亡率との関係も

婦人科専門医 松村圭子先生

----今や5人にひとりが睡眠の悩みをもっているといわれています。不眠の状態が続いてしまうと、更年期のからだにはどのような影響があるのでしょうか。女性の一生をケアする診療で多くの女性から信頼を寄せられる成城松村クリニックの院長、松村圭子先生にお話をお伺いしました。

眠らずにいると、
脂肪をため込む体質に

健康な心やからだ、美しい肌をつくる上で、食事や運動と同じくらい大切なのが睡眠です。不眠は、生活習慣病を引き起こす原因にもなります。肥満もそのひとつ。胃から分泌されるグレリンという食欲ホルモンは、空腹になると胃から血中に分泌され、これによって「おなかがすいた」という感覚が生まれるのですが、寝ていないとグレリンの分泌は増えるのです。

成城松村クリニック松村圭子先生

それだけではありません。抗肥満ホルモンと呼ばれ、満腹中枢に働きかけて食欲を抑制するレプチンの分泌は、減ってしまうのです。寝ないと太ると言われるのはこのためです。寝ずに起きているからついつい食べてしまうだけではなく、不眠は「食欲が増して脂肪を溜め込む」という、太る体質へと変えてしまいます。そのほかにも不眠は血圧や血糖値が上がるなど、生活習慣病と深い関係があります。

慢性的に不眠が続くことで、心やからだの健康にはさまざまな影響がありますが、その中でも死亡率が高まることは大きなリスクと言えます。アメリカの調査では、110万人の人を6年間にわたり追跡したところ「睡眠時間が7時間の人がいちばん死亡率が低い」という結果が出ました。睡眠時間が7時間より長くても死亡率は高まりますし、睡眠不足の積み重ねもまた、死亡率をあげてしまうのです。

美肌づくりは
寝始め3時間が勝負

睡眠不足や不眠は、美肌にも大敵。徹夜明けや十分に睡眠が取れなかった翌日、「どうしよう…肌がボロボロ」と鏡を見た経験は誰もがあるでしょう。睡眠中は、成長ホルモンが分泌されることにより、肌細胞の修復や再生が行われます。成長ホルモンは10代後半くらいにピークを迎えたあとは下降していき、50代では分泌される量はガクンと減りますが、それでも成長ホルモンは微量ながら一生つくられます。

成長ホルモンの生涯分泌パターン

さて、1日の中で成長ホルモンがもっとも盛んに分泌されるのはいつだと思いますか?それは「その夜、最初に訪れた深い眠りのとき」です。人間の睡眠は、深く眠るノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠が90分を1周期としたサイクルのなかで繰り返されています。深いノンレム 睡眠は、夜のうちに何度も巡ってきますが、もっとも深いのは最初の一周期目で、次に2周期目と、眠りについてから時間が経つほどに浅くなり、そのうち朝が来て私たちは目覚めるのです。成長ホルモンも最初の1、2周期のノンレム睡眠のときに一気に分泌されています。

つまり寝入りばなにどれだけ深く眠れるかどうかが、成長ホルモンがスムーズに分泌されるカギです。最初の1周期目と2周期目の「寝始めの3時間」がとても重要。よくお肌のゴールデンタイムは22時~深夜2時といわれますが、この時間帯に科学的根拠はありません。

理想の睡眠とは?
ワコールボディブック「理想の睡眠とは?」より。
イラスト/はまだなぎさ

影響不眠によるS O Sは、
我慢しすぎず医師へ相談を

そうはいっても、入眠時に考えごとをして眠れないという患者さんもいます。日々の不安や心配ごとにプラスしてコロナ後のお金のことや仕事のことなど、「不安を先取り」してはますます脳がオン状態になり、覚醒して眠れなくなってしまいます。また、昨日眠れなかったら今日も眠れないんじゃないかと緊張し、ますます眠りから遠ざかってしまう悪循環に陥ってしまう人もいます。

このように内面に大きな問題を抱えた状態では、サプリなどを飲んでも効き目はあまり期待できません。不眠は、心やからだにさまざまな不調を招き、生活全般の質が下がります。そのデメリットを考えたときに、私は医師に相談して睡眠導入剤を処方してもらうことも選択肢に入れて欲しいと思います。今は依存性のない薬もありますので、つらい体調や気持ちを忍耐強く我慢したり、絶対に自分の力で睡眠を勝ち取る!などとこだわりすぎずに相談してみてください。

--------次回の【特集】更年期と睡眠の深い関係#03では、不眠を解消するためのライフスタイルの見直しを考えます。

  • 松村圭子 婦人科医、成城松村クリニック院長。婦人科専門医として、月経トラブルから更年期障害まで、女性の一生をサポートする診療を行う。西洋医学のほか、漢方やサプリメント、点滴療法による幅広い治療方法で、女性のあらゆる不調をケア。小さな悩みごとでも相談しやすく、姉御肌の頼れる女医として人気。『これってホルモンのしわざだったのね 女性ホルモンと上手に付き合うコツ』(池田書店)や『40代からの「女性ホルモン力」を高める簡単ごはん 』(芸文社)など著書も多数。 成城松村クリニック
取材・文/大庭典子
撮影/望月みちか
デザイン/日比野まり子
イメージ写真/shutterstock.com