通勤や週末の趣味として、あるいは運動として、自転車を楽しむ人が増えています。そうした中で、WACOAL MEN(ワコールメン)では自転車に乗る人たちから熱烈な支持を集めるブランド「narifuri(ナリフリ)」とコラボし、「ダブルエアスルーパンツ」と「ラグランシャツ」を完成させました! 開発のきっかけや、こだわり抜いて完成した商品の特徴について、「narifuri」の田原さんと眞苅さん、「WACOAL MEN」の岩田と中山にたっぷりと語ってもらいます。
narifuriファンだったワコール社員がコラボを発案!
――まずは「narifuri」について教えてください。
田原(narifuri以下n) narifuriは、「fashion+bicycle」をコンセプトにしたファッションブランドです。自転車に乗ることを想定した機能と、街に溶け込むデザインを両立させていることが特徴です。
眞苅(n) 自転車に乗るときに感じるストレスを軽減する素材や機能を搭載しながら、自転車を降りたあとにお店やレストランに行ったり街のいろいろな場所に溶け込むウェアをつくっています。
岩田(WACOAL MEN以下W) narifuriさんは自転車に乗る人の間ではファンも多く、実は今回のコラボのきっかけもチーム内にnarifuriファンがいたことなんです。そこで「まずは声をかけてみよう!」と、飛び込みのアポからスタートしました。
中山(W) WACOAL MENはこれまで百貨店ブランドとして続けてきました。今、変化や挑戦をすべきタイミングなのではという、みんなの共通意識もあり、コンセプトの「こだわりのある男性に向けた商品を」という点は変えず、もう少し絞って、密かな盛り上がりを見せている自転車というキーワードで探ってみよう、と。新たなお客様へアプローチができるのではないかと考えました。
田原(n) アンダーウェアの開発はnarifuriにとっても、興味深い話でした。というのも、自転車に快適に乗ることを想定して機能を考えると、何よりも気になるのは汗です。その汗がいちばん最初に触れる場所というのはアンダーウェアなんですよ。ごく普通のアンダーウェアだと汗が残ってそれが匂いの元になったり、サドルと接触する布部分がすぐにヘタってしまったりと、ストレスを感じていたんですよね。
ペダリングのたびに風の通り道ができる機能を搭載
――「ダブルエアスルーパンツ」の開発はどのように進んだのでしょうか?
岩田(W) まず最初にWACOAL MENのトランクスや無縫製のタイプのパンツなどあらゆるラインアップを試着してもらい、感想をいただきました。
中山(W) 必要な機能・不要な機能、そして不満点など、率直な意見をいただきました。この時点で自分たちだけでは気づかなかったような指摘もたくさんありました。
岩田(W) 試着してもらった中から、必要な機能を選んでベースをつくり、そこからさらに追加でどんな機能が必要か、デザインはどうしようかとひとつひとつ話し合いながら、開発を進めました。
田原(n) 本当にチーム全員が苦笑いするくらいわがままを言わせていただきました(笑)。
岩田(W) 素材についても、自転車に乗るという特性に沿った生地探しから始めました。自転車という日常よりも過酷な状況を想定したときに、通常のナイロンよりも耐久性に優れたCORDURA®(コーデュラ)ナイロンを使うことにしました。
眞苅(n) この素材は、僕らもアウターをつくるときにはよく使いますし、最近ではリュックなどにも多く使われています。
中山(W) CORDURA®ナイロンは、摩擦強度が高く、引き裂きや擦り切れにも強く、軽くてしなやかなのが特徴です。この素材に吸汗速乾、接触冷感、UVカット機能を追加しました。
田原(n) 先ほども言いましたが、日常用の生地のアンダーウェアだとサドルと干渉する部分がすぐにボロボロになってしまうんですよね。その点、CORDURA®生地のアンダーウェアはかなり心強いと思いました。
岩田(W) 「ダブルエアスルー構造」も大きなポイントです。ひと言で言うと、「動いたときに風の通り道ができる」機能です。バックとフロントの両面にメッシュとナイロンの箇所をつくり、本体生地との通気の度合いに差をつけることによって、動くたびに熱気や湿気を逃し、走行中のムレ感を軽減します。
田原(n) 自転車は、前かがみで乗るので、おなかに汗がたまりやすいんですね。この部分にエアスルー機能があるというのはとても理にかなっていますし、ペダリングして常に動いているので、風が通るのはとてもいいですね。何種類ものアンダーウェアを試して、この機能のあるなしで体感に違いがあることを実感したので、ぜひ搭載したいと思いました。
中山(W) 「ダブルエアスルー構造」は、ワコールが開発した機能で、これまでWACOAL MENでも採用していました。男性特有のムレや熱がこもりやすい部分を人間科学研究所で調べた結果、太もも内側、フロント部、ヒップなどに湿気がこもりやすいことがわかりました。熱がこもってしまう衣服内の環境を少しでも快適にできないかという背景で生まれました。それが自転車でも同じ場所に蒸れが生じやすいということがわかったのも発見でしたね。
岩田(W) 汗のたまりやすいウエストに、メッシュのテープを使っているのも不快感軽減のためです。ウエストテープで通気性に特化したのは、ダブルエアスルーパンツのなかでも初めてのことでした。
中山(W) 丈にも工夫があります。
田原(n) 自転車の運転中、アンダーウェアの裾のずり上がりが非常に気になるんですよ。
岩田(W) そこでずれ上がりにくい丈設定を探るべく、数タイプのサンプルをつくって、実際に自転車に乗ってもらいました。
眞苅(n) 長すぎる丈や締め付けのきついものは、通勤や普段ばきには適していないだろうという結果に。そして行き着いたのが通常よりも短めの丈です。
「バックポケット」が他の機能性インナーとの圧倒的な差別化に
――コラボアイテムの「ラグランシャツ」についても教えてください。
岩田(W) いちばんの特徴は、前から見たら肩から脇にかけて垂直に切り替えが入っている「セットインスリーブ」に見えますが、後ろ側は襟ぐりから袖下にかけて斜めの切り替えが入っている「ラグランスリーブ」になっているんです。スプリットラグランと呼ばれるデザインです。
田原(n) ラグランは腕の可動域が広がるという良い点がある一方で、フロントもバックもラグランだと、デザイン的にスポーティな印象を与えます。あくまで街着としても使えることにこだわりたかったので、バックだけラグランにして可動域は確保しつつ、街で着られるデザインにしました。実はこのスプリットラグランは、narifuriのアイテムでよく使っているアイデンティティのようなデザインなので、絶対に加えたいと思いました。
岩田(W) このようなデザインはワコールでは初めてだったのですが、すごく理にかなっていると思いました。また、自転車に乗っているとよく汗をかく両脇は通気性を高めるメッシュ生地を使用しています。
眞苅(n) 走行中にめくれて背中が出ないように、裾部分を後ろ下がりにラウンドしたデザインに設計しています。
中山(W) そして見た目にもわかる大きな特徴は、やはりこのバックポケットです。
田原(n) その節はすみませんでした(笑)。このデザインは、最終の最終で僕が「やっぱり…これも!」と追加で注文したんです。
眞苅(n) さすがに私も「え、今言う?」と思いましたけど(笑)。
田原(n) 今や市場に機能性インナーがあふれるなか、夏場はこれ1枚で自転車通勤OK、というものがつくりたかったんです。自転車ウェアにとってバックポケットは、補給食や工具を入れるために必要な機能。それをこの商品にもつけたら、本格的なロングライドにも対応可能なものができると思いました。
僕は街で着るときは、バックポケットにお財布や携帯、サングラスを入れて使っています。皆さんも一度着たらあまりの便利さに驚くと思いますよ。
岩田(W) 完成のタイミングでちょうど会社のメンバーが自転車で琵琶湖一周すると言うので、商品を試してもらいました。「自転車を止めたときドッと汗をかいても、すぐに乾いて快適だった」「アンダーウェアがずり上がらない着用感がよかった」など、感じて欲しいと狙っていた反応がもらえて安心しました。
田原(n) 僕は毎日、家と会社の往復60kmほど自転車に乗っていますが、夏は毎日このインナー1枚で通勤したいと思っています。今回、本当にたくさんわがままを聞いてもらいましたが、こんなにスピーディにできたのは、同じ方向を見て感覚やイメージを共有できていたからだと思っています。
岩田(W) こちらこそありがとうございました。自転車に乗る方に自信をもってすすめられる1枚が完成しましたね。これからもよろしくお願いします。
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田原恵真(たはら・けいしん)
ヒットユニオン(株)narifuri ブランドマネージャー
入社30年目。同社ブランドの多くのコラボレーションを企画、2016年からnarifuriを担当。
学生時代にスキーのモーグルにのめり込むもヒザの怪我で断念したが、リハビリで始めた自転車にのめり込みマウンテンバイク、ピストバイク、ロードバイクを乗り継ぎ、今はnarifuri自転車部門charifuriオリジナルフレームCF01愛用の自転車歴30年。
街乗りからロングライドまでを楽しみながら自転車の乗り手目線で、新しい価値観の身なり(nari=モノ)と振る舞い(furi=コト)を日々創造(妄想)している。
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眞苅直樹(まがり・なおき)
ヒットユニオン(株)narifuri プロダクトマネージャー
同社スポーツブランドの企画を担当後退社。ドメスティックブランドOEMメーカーにてブランド設立~生産・営業まで幅広く担当。2009年に同社へ復帰。カジュアルブランドの企画・生産を担当後、2019年よりnarifuriブランドの企画・生産を担当。
スポーツ~カジュアルまで幅広い分野の経験を活かして、機能とファッションを融合させた素材づくりを得意とするファブリックフェチ。
仕事の移動手段と健康維持のために、EASY RIDEがモットーの自転車LIFEを送っている。
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岩田一真(いわた・かずま)
ワコール 第2ブランドグループ メンズインナー商品営業部 商品企画課
2013年ワコール入社。
入社後、婦人補正下着のパタンナー・商品企画を経て、2019年メンズインナー商品企画課へ異動。現在、ワコールメン商品企画を担当。
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中山頌子(なかやま・しょうこ)
ワコール 第2ブランドグループ メンズインナー商品営業部 商品営業課
2013年ワコール入社。
入社後、販売店で量販店セールスを経て、2018年メンズインナー商品営業部へ異動。現在、ワコールメン企画MDを担当。
撮影/丸山涼子
デザイン/WATARIGRAPHIC