百害あって一理なし! 今すぐ「座りすぎ」生活を見直そう

特集/美しい姿勢で美しく生きる!

先生/岡 浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)

---- 今、この記事を読んでくださっている方。どんな姿勢で画面を見ていますか? 立っていますか? 座っていますか? もし座っているなら、その場所に座ってからどのくらいの時間が経っていますか? 近年、長時間「座位」姿勢を続ける、つまり「座りすぎる」ことが、さまざまな健康被害を引き起こすとして世界各国で注目を集めています。「座りすぎ」で私たちのからだにどんなことが起こっているのか。日本における「座りすぎ」研究の第一人者である岡 浩一朗先生にお話をうかがいました。

百害あって一理なし! 今すぐ「座りすぎ」生活を見直そう

WHOも警鐘! 「座りすぎ」は今や世界的な大問題

2020年11月25日、世界保健機関(WHO)が、2010年に発表した身体活動に関するガイドラインを更新しました。健康でいるためにこれくらいの運動をしましょう、という具体的な推奨事項を示したものですが、今回、タイトルに「sedentary behavior」=座位行動、という文言が新たに加えられており、「座りすぎ」問題に改めて注目が集まっています。

ガイドラインの中では、成人(18歳〜64歳)に向けては、「座位行動は最小限にとどめて、その代わりに低強度でもよいので身体活動を取り入れる」ことを推奨しています。青少年(5〜17歳)には、「座っている時間は最小限に留めるべき。特に娯楽目的でデジタル機器のスクリーンを見ている時間を少なくすべき」と、テレビやスマホと 「座りすぎ」問題の関連も示唆する、踏み込んだ内容になっています。健康のためには「適度に身体を動かす(運動をする)」ことと並行して、「座りすぎない」ことも重要だということをはっきりと提示しているのです。

私たちは、食事をするとき、仕事をするとき、テレビを観たり本を読んだりするとき、車を運転するとき、たいていは座っています。しかも、長時間連続して、下半身を動かすことなくじーっと座っています。一見、なんでもないことのように見えるこうした生活スタイルが、肥満や糖尿病・高血圧・心疾患・脳梗塞・がんなどの病を誘発する危険性があると指摘されているのです。「動かない」ことにリスクがある、これが、現代人が直面している「座りすぎ」問題です。

「座りすぎ」は健康を脅かすサイレントキラー

なぜ、「座りすぎ」が健康被害につながるのか。それは、下半身を使わないからです。

人間のからだの筋肉の70%は、下半身に集中しています。特に、「第二の心臓」と呼ばれ、足に降りた血液を心臓まで押し上げて戻すポンプの役割を担っているふくらはぎ。そして人体で最も広く、厚みのある特大級の筋肉「大腿四頭筋」がある太もも。この2つが、座っている間はまったく使われません。血流は一気に悪化します。

座っているときの姿勢も、血流にとっては悪いことばかりです。股関節・ひざ・足首がL字状になっているため、血管・リンパ管はギューっと圧迫され、太ももやおしりもつぶされて、血液のスムーズな流れをはばみます。

代謝機能も低下します。太もも前面の「大腿四頭筋」は、代謝にとってすごく重要な筋肉で、ここにスイッチが入ることで、糖の代謝がよくなったり、脂肪を分解する酵素の機能が活性化されたりします。これが座り続けることによって何時間も停止状態になると、全身の代謝が停滞してしまいます。

血流や代謝を滞らせる「座りすぎ」は、長時間のフライトなどで発症するエコノミークラス症候群や、心臓発作や脳梗塞を呼ぶ血液ドロドロ状態に、自らすすんでなっているようなものなのです。

さらには、頭の中も活性化しないため、認知機能も低下するといわれています。「座りすぎ」はまさにサイレントキラーなのです。

----運動不足が健康に悪いことはすでにわかっていたことですが、まさか長時間座っているだけで、からだにこんなにも影響を及ぼしていたとは…。次回は、日常生活のシーンを具体的に挙げながら、「座りすぎ」のリスクについてさらに詳しく教えていただきます。

取材・文/剣持亜弥
  • 岡 浩一朗
  • 岡 浩一朗 早稲田大学スポーツ科学学術院教授。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。1999年より早稲田大学人間科学部助手、2001年より日本学術振興会特別研究員(PD)、2004年より東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)介護予防緊急対策室主任を経て、2006年より早稲田大学スポーツ科学学術院に准教授として着任、2012年より現職。
    研究分野は健康行動科学、行動疫学。特に日本人の国民的な運動不足を無理なく解消させる方法を研究テーマにしている。
    近年は「座りすぎ」の健康被害に関する研究の第一人者として注目されており、メディアヘの出演も多い。著書に『「座りすぎ」が寿命を縮める』(大修館書店)、『長生きしたければ座りすぎをやめなさい』(ダイヤモンド社)がある。