正しく恐れるために。知っておきたい乳房の病気

特集/美胸の保ち方

先生/島田菜穂子(ピンクリボン ブレストケア クリニック表参道 院長)

---- 乳房の状態に大きな影響を及ぼす女性ホルモンは、乳がんをはじめとする病気にも深く関わってきます。しかし、乳房の病気にはどんなものがあるのか、あらかじめ知っておくことで、不必要な不安をとりのぞくと同時に、いざというときには早めの対処も可能になるはず。乳がんに関する啓発活動に日本でいち早く取り組んできた島田菜穂子先生に、乳房の病気についてうかがいました。

正しく恐れるために! 知っておきたい乳房の病気

9人にひとりが乳がんに。検診、受けていますか?

乳房の健康、と聞いて、多くの人がまず思い浮かべる言葉が「乳がん」だと思います。乳がんは、乳腺にできる悪性の腫瘍で、日本人女性の9人にひとりがかかる病気(国立がん研究センター・2017年罹患データより)。女の子がちょっと集まれば、そのなかのひとりは乳がんになる、そのくらい身近なことです。著名人でも多くの人が乳がんを経験していますよね。でも、なんとなく「自分だけは大丈夫」と、人ごとのように思っている人が多いように感じます。

皆さんは、「ピンクリボン運動」をご存知でしょうか? 1980年代にアメリカで始まった、乳がんの正しい知識を広め、乳がん健診の早期受診を推進することなどを目的とする啓発キャンペーンです、私は、90年代にアメリカに留学した際に、一般の人々の乳がんに対する関心の高さに驚き、帰国後、有志とともに日本でも活動をスタートさせました。その当時の検診受診率は、10%以下。20年経った2019年には、ようやく47%まで上がりましたが、それでもまだ半数に満ちません。日本以外の先進諸国の受診率は70〜80%です。日本人は健康への意識も高いはずなのに、検診率が上がらないのは、乳房について、ひいては女性のからだについての正しい知識が不足しているからだと思うのです。

「子どもをたくさん産んでいれば大丈夫」「閉経するとならない」「家族にかかった人がいないから平気」など、根拠のない思い込みや自己流の解釈もよく聞かれますが、乳がんになる人の75〜80%は、家族に乳がんの罹患(りかん)歴がありません。出産や授乳の経験も無関係ではありませんが、「これで乳がんとは無縁」ということにはなりません。そもそも、男性でも乳がんになる人はいるのです。ほ乳類であれば、誰だって可能性はあるのです。

反対に、乳がんに対して過剰な恐れを抱く人もいます。しかし、現在、早期乳がんの90%以上は治癒しています。大切なのは、正しい知識を得て、適切なケアを続けていくことなのです。

良性? 悪性? ほかにもある乳房の病気

乳房の病気では、ほかに、乳腺炎、乳腺症、乳腺腺維腺腫などがあります。

乳腺炎は、授乳中になることが多く、ミルクのたまりすぎや、細菌が乳房の中に入ったりすることで起こる病気です。乳腺が炎症を起こすので、乳房が赤く腫れ、痛みもあります。抗生物質や、ひどい場合は切開して膿を出すなどして対処します。

乳腺症は、30代〜40代の女性によく起こる、ホルモンの影響による良性の乳腺の変化です。特に月経前に乳腺がかたく腫れ、月経後は少しやわらぎます。病的な状態ではないので治療の必要はありませんが、ぶどうの房のように連なっている乳腺のつぶが目立つようになり、手で触れるとしこりのように感じることがあります。これが、乳がんのしこりと非常に区別がつきにくいので、気になるようなら念のために診断を受けましょう。

乳腺腺維腺腫でも、しこりができます。良性の腫瘍で、触ると、硬くてクリクリと動くのが特徴です。10代後半から30代の、比較的若い年代で発生することが多く、閉経後は徐々に小さくなっていきます。

乳房は、日々の生命維持に役立っている臓器ではありません。具合が悪くなっても「顔色が悪くなる」ようなこともありません。乳房の変化に気づくためには、まず、「ここに乳房があるぞ!」と、その存在を認識すること。定期的に乳房の状態をチェックしていれば、軽微な変化にも気づけるようになります。「乳房認識」することから、ブレストケアは始まります。

----普段の自分の乳房の状態を把握しておけば、「あれ?」という小さな変化にも気づくことができる。乳房を気にかける=ブレストアウェアネスとは、自分を大切にする心を持つこと、自身のからだを慈しみ守ることにつながります。セルフチェックや定期的な検査で、乳房の健康をもっと気にしてあげましょう。次回は、乳がん検診をはじめとするブレストケアの最新情報についてうかがいます。

取材・文/剣持亜弥
  • 島田菜穂子
  • 島田菜穂子 ピンクリボン ブレストケア クリニック表参道 院長。認定NPO法人乳房健康研究会 副理事長。放射線科診断医として勤務後、1992年、東京逓信病院に乳腺外来を開設。1998年より日本放射線科専門医会海外留学フェローシップに選考され、米国ワシントン大学メディカルセンターブレストヘルスセンターに留学。帰国後、2000年に乳癌啓発団体「乳房健康研究会」を発足し、同副理事長に就任。ピンクリボン運動、イベント出版活動展開、調査研究を通じて乳がん検診の環境整備のためのロビーイングを開始する。2008年に「ピンクリボン ブレストケア クリニック表参道」開設。