深い呼吸で美しさもアップ!

特集/呼吸で自分を変える!

先生/柿崎藤泰(文京学院大学 保健医療技術学部
保健医療科学研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

深い呼吸で美しさもアップ!

歪んだ胸郭は呼吸にも影響が

呼吸の深さと密接な関係がある胸郭の歪み。呼吸を深くするためには、胸郭をできるだけニュートラルな状態に近づけることが必要ですが(前回の記事)、そのためにはどんなことが有効なのか、さらに詳しくお伺いしました。実際に取材現場では、胸郭をニュートラルに近づける簡単な対策法を試し、「息がこんなにたくさん吸えるなんて!」という驚きも体験。引き続き文京学院大学の柿崎先生にご登場いただきます。

「左右の肩を比べると、多くの方は右のほうが下がっています。左右の腕を交互に耳に付ける位置まで挙げてみてください。どちらのほうが挙げやすいですか? 右肩が下がっている人は、左手のほうが挙げやすいでしょう。この右肩の下がりは、右の肩甲骨の上部にある筋肉の働きが悪いことを意味します。したがって、右の肩においては肩こりや痛みなども起こりやすいかもしれません。また、肩関節に対して、股関節は対角的に連動していますから、右肩下がりの人は、左の腰の筋肉の働きが悪くなりやすいのです。

肩の左右の高低差が大きくなればなるほど、からだの非対称性は強まります。からだの非対称性の大きさは、胸郭の歪みとも比例していますから、からだの非対称性が強まると、呼吸も浅くなってしまいます。

胸郭が大きく歪んだ状態では、中にある横隔膜全体の調和も崩れてしまいます。呼吸活動の7割を担っているのが横隔膜ですから、その形が崩れれば、当然呼吸の質も下がってしまいます。

多くの人の胸郭は、中心が過度に左側に寄った状態です。前回お話した通り、胸郭のニュートラルポジションは、中心が左に1~2ミリズレた場所にあります。胸郭が過度に左側に寄った状態からニュートラルに近づけば、呼吸の際の抵抗が減り、深い呼吸ができるようになります。

「呼吸でやせる」の真実

胸郭の歪みは多かれ少なかれ誰しも持っているものですが、こういった歪みは肋骨一本の動きを変えるだけで、横隔膜の張力が均一に近づくんです。もちろん呼吸の深さにもいい影響を与えます。すぐにできる対策をふたつ挙げますので、ぜひ試してみてください。

【"胸郭のニュートラル"のための方法1/ボールを使って】
①ボールを用意し、左の肘を90度に曲げて二の腕に添ってボールを動かし、そのまま肩甲骨側にボールを移動。
②仰向けになった状態で、この位置にボールを挿入し、ボールが接している部分で軽くボールをつぶしていきます。
③ゆっくりとしたボールプッシュを10~15回する。
これをするだけで、息が深く吸えることを実感できると思います。

もうひとつは、座ったままできる簡単な方法です。

【"胸郭のニュートラル"のための方法2/深呼吸】

ふーっと大きく息を吐きながら、図の赤丸の部分(みぞおちの下部分)を左右の指先で押してください。吐き終わりに横隔膜が本来位置する高さに戻りやすくなるので、次に吸う息がぐんと深くなります(横隔膜の運動範囲が広がるため)。もしも赤丸部分が固くて、指が入らないという人は、呼吸も浅くなっている可能性が。そういう方はお風呂でやってみると、浮力がかかり、力みがぬけ柔らかくなり、押しやすくなりますので試してください。 肋骨弓 【方法1】は左の肩甲骨あたりをボールで圧を加えることで、左の肋骨に刺激が加わり、肋骨の左の下半分がからだの中央に寄ってきます。多くの人は、この左の部分が外に広がりやすいのです。
【方法2】は左右の肋骨弓を中央に寄せるための方法です。左だけではなく右も同時に中央に寄せることで、確実に胸郭をニュートラルにすることができます。

本来、かご状の骨格をしているはずの胸郭ですが、胸郭が歪んでしまうと、左下部がまるでスキーのジャンプ台のようにめくれた形状になってしまう人もいます。

上記のような方法で、正しい位置に感覚的刺激を与えると、広がっていた肋骨が中央に寄り、立体的な形に戻ってきます。そうすると、呼吸が深くなるばかりか、ウエストラインも美しくなるなどの特典も。さらには、きれいなウエストラインほど、コアの筋肉もきちんと機能しますから、呼吸はもっと深くなり...とプラスのスパイラルが働き始めます。簡単な方法ですので、ぜひ試してください」

呼吸にまつわる興味深いお話の数々、ありがとうございました! ボールを押す【方法1】を行い、その場でウエストのサイズを測ったら...なんと3cmも減! ボールの刺激により、胸郭の左下部のめくれが中央に寄ることで起きたうれしいサプライズでした。と同時に、呼吸が深くなっていることも実感。深い呼吸はからだの美しさに直結しているのですね。
柿崎藤泰

柿崎藤泰 文京学院大学 保健医療技術学部、保健医療科学研究科教授、理学療法士、医学博士。昭和大学藤が丘リハビリテーション病院リハビリテーション部、昭和大学附属豊洲病院リハビリテーション部主任を経て現職。胸郭の運動分析、姿勢と胸郭周囲筋活動の関係、呼吸運動療法(呼吸困難感を和らげ、個人にみあった日常生活動作を再建するための運動療法)の開発を行う。臨床結果に基づき、培った理学療法士の技術により、呼吸器の障害を持つ多くの人々に見合う最良の「呼吸」づくりを提案。『呼吸運動療法の理論と技術』(メジカルビュー社)『ブラッシュアップ理学療法』(三輪書店)など著書多数。NHK『あさイチ』での呼吸の特集にも出演。

イラスト/190