脱力上手は姿勢美人

特集/姿勢に自信ありますか?

先生/山口光國(理学療法士)
取材・文/大庭典子(ライター)

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後ろに反らすのがキツい...は姿勢に黄信号!

姿勢には、"静止時"の美しさと"動き"の美しさがあることがわかりました。では、"動"の姿勢の美しさとは、どのような状態のことなのでしょうか。また、どうしたら今よりも美しくなるのでしょうか。引き続き理学療法士の山口光國先生にお伺いしました。

動の姿勢の美しさのためは、前にも後ろにも、左右にも、ねじりもすべて"文節的"に動けることが重要。いろいろな方向になめらかに動けることが、美しさにつながるのです。

そのためには、意外かもしれませんが、"脱力"の仕方を知っていることが大切です。からだがガチガチに固まっていて、上手に脱力できない人、もしくは脱力ばかりでしっかりと力を入れることができない...など、バランスが偏っている人が多いのです。緊張と緩和のバランスの悪さは、そのまま姿勢にも影響します。

いつでもからだが緊張している人は、動きになめらかさがありません。立っているときは美しいけれど、物を拾おうとしたとき、振り向いたとき、先ほどまでの美しさはどこへやら、突然動きが固くなり、老けて見える方がいます。彼女たちは"動"の姿勢が悪いのです。

接客業など、常に見られている職業の方や仕事中常に緊張していたりストレスフルな方などは、からだが固まってしまっている可能性大。1日1回でいいので家でソファに座って、デレ〜っと力を抜いた態勢でくつろぐことができると、からだはずいぶんとラクになるはずですよ。

いい姿勢を取ろうとすると、とかくどこかに力を入れて背筋を伸ばして、と思いがちですが、実は力を抜くのを意識することもいい姿勢には必要なのです。上手に力が抜ける人、動の姿勢がいい人というのは、静止時だけでなく、何をしているときも美しく、また動きに移るときの動作もスムーズ。

その鍵は、脊柱(せきちゅう)の動きにあります。脊柱とは背骨を構成するひとつひとつの骨が積み重なっている、体幹の中軸をなす部位のこと。この脊柱がしなやかであることが重要なのです。脊柱の美しい動きをバンブーアクションとも言いますが、前にも後ろにも自在に動き、竹のようにしなる脊柱が美しい姿勢をつくります。

ところが、脊柱の回旋の数値は年齢とともに低下してしまいます。加齢変化に見られるのは、前にはべたっと曲げることができても、後ろに反らすことができなくなってしまう現象。

だからといって、決して無理に反らそうとしないように。普段使っていない背筋をいためてしまいますから。無理のない範囲で始めるならば、"ラジオ体操第一"がおすすめです。美しい姿勢に必要な筋肉をからだに大きな負担をかけることなく鍛えられます。

後ろに反る動作がキツくなり背中が丸まってしまうと、呼吸も浅くなります。浅い呼吸だけで過ごしていると、しだいに肋骨(ろっこつ)が固まって動かなくなり、これも姿勢を悪くする一因に。肋骨に働きかけて、深呼吸がしやすいように促すブラジャーは、美しい姿勢の助けにもなるでしょう。

心の姿勢が見た目にも現れる?!

さて、動の姿勢のよさを語るうえで欠かせない"脊柱"ですが、実は心の状態とも深い関わりがあることはご存知ですか? 先日、セラピー中にこんなことがありました。「この1か月で、腰や背中、首が痛くなった」というある方の話をよくよく聞いていると、1か月前にものすごく不愉快な出来事があったとのこと。

怒りや不安など、心の状態が1か月かけてからだの症状として出てきたのです。驚いたのは、施術中その方が自分の身に起きた怒りのエピソードを語り出したとたん、見た目にはっきりとわかるほど、脊柱の背側にある棘筋(きょくきん)が飛び出してきたのです。こんな風に喜怒哀楽は、直接的にからだに影響しています。"うつむく"とは"鬱に向く"と言うように、「心の動きがからだをつくる」のです。

姿勢について考えるとき、心のバランスについても思いを巡らしてみると意外な発見や気づきがあるのかもしれませんね」

確かに姿勢が美しい方は、しゃべり方も明るく全体に楽しげな雰囲気の人が多い気がしますね。煮詰まったときにはふっと力を抜く習慣をつけて、脱力上手な姿勢美人を目指します。
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山口光國
(セラ・ラボ代表/理学療法士)
日本サッカーリーグの日立製作所(現 柏レイソルズ)にFWとして入団。故障から21歳で引退し、現職へ転身。昭和大学藤が丘リハビリテーション病院を経て、'05年より横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)にフィジカルコーチとして就任。現在は、さまざまなジャンルのアスリートをサポートするほか、全国各地で講演、セミナー活動も行う。

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