エイジングの鍵、クーパー靭帯とは?!

特集/目ざせ、美バスト!

先生/山口久美子(国立大学法人 東京医科歯科大学
医歯学融合教育支援センター 講師)
取材・文/大庭典子(ライター)

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一度伸びたら、戻らない!? クーパー靭帯の不思議

いつまでも若々しく上向きでハリのあるバストでいたいと願いながらも、年を重ねるごとに感じる変化...。なぜ、バストの形や大きさは変化していくのでしょう。引き続き、東京医科歯科大学の山口久美子先生に教えていただきました。

乳房をきれいな丸い形に保つのに重要な役割をもっているのが、ご存じ"クーパー靭帯"。クーパー靭帯は、コラーゲンを主成分とした硬い結合組織です。

乳房全体を支えている結合組織を見ていきましょう。図1に示されるように乳房は胸部の皮下にある皮下筋膜の浅葉と深葉の間にあります。クーパー靭帯はその両者をつなぎ、乳腺組織や脂肪組織が脇に流れないようにしています。前回お伝えした通り、乳房は大胸筋という土台の上にのっていますが、この大胸筋と乳房は、ぴったりと密着しているわけではなく、後ろに乳房後隙というやわらかい結合組織がある空間が存在します。

ちなみに、乳房以外の場所、たとえばおなかや背中にもこの「皮下筋膜の浅葉と深葉の間」には脂肪があります。浅葉と深葉をつなぐ結合組織のネットワークが存在してその間に皮下脂肪が入るところとなります。クーパー靭帯は、からだの皮下のどこにでもある結合組織が乳腺を容れるために特殊な形に変化したものなのです。 Image 図1で示される断面では白い線として描かれているクーパー靭帯ですが、実際にどのような形状なのか見てみましょう(図2)。写真で白く見えるのがクーパー靭帯です。一本一本が独立して存在するのではなく、網状ですき間を埋めるように存在しているのがわかりますね。この膜状の靭帯により乳腺組織や脂肪組織は支えられ、乳房の丸みを作ることができるのです。 Image 【出典】
図2
Breast imaging / Daniel B. Kopans
3rd ed
Baltimore, MD : Lippincott Williams & Wilkins , c2007
ISBN 0781747686


靭帯は筋と違って伸び縮みするものではなく、ある一定の距離を同じ長さに結ぶ構造です。しかし、クーパー靭帯は無理やり伸ばされるような時期があります。それは、バストが大きくなる"思春期"と"授乳期"。この時期は、乳腺の細胞や水分が増え、乳房の内容量が増えるので、クーパー靭帯もその大きさに付いていくために、引き伸ばされるのです。

では、逆にバストが小さくなったらどうなるのでしょう。伸びたとき同様、乳房の内容量に応じてクーパー靭帯は縮むのでしょうか。残念ながら...縮みません。クーパー靭帯はコラーゲンが主成分なので、悲しいかな一度伸びたり切れたりしたら、元の長さに縮んだり、元の状態に復元することはできないのです。

クーパー靭帯が伸びてしまう最大の原因とは

もうひとつ、乳房の成長以外にクーパー靭帯が伸びる原因があります。それは、加齢変化によるもの。二の腕やおなかがたるむように、からだ全体の"結合組織"が加齢でゆるむのは確かなこと。クーパー靭帯も結合組織のひとつなので、エイジングとともに、伸び、損傷を受けます。バストの内容量は変わらないのに、クーパー靭帯が伸びてしまうことが、バストの"下垂"の一因。また、乳房後隙を埋めている結合組織が緩めば、乳房全体が下垂することにもなります。

クーパー靭帯や周辺の結合組織がエイジングによって伸びてしまうことを食い止める術は今のところありません。からだの組織は血流によって酸素や栄養を与えられ、老廃物を取り除かれます。きつすぎるブラジャーをつけない、お風呂にゆっくり入る、ストレスを溜めない、など血流をよくするための一般的な習慣も、バストに血管が多くあることを考えれば有効でしょう」

バストのエイジングには、クーパー靭帯がどれだけ肝であるかがよくわかりました。できることならクーパー靭帯を鍛えたい!...と思ってしまいましたが、それは叶わぬ願い。ならば少しでもエイジングの速度が落ちるよう努力をしたいですね。クーパー様の損傷を少しでも軽減させるために。

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山口久美子 東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 講師、医師・医学博士。2000年東京医科歯科大学医学部医学科卒業、2004年同大学院 医歯学総合研究科臨床解剖学分野 修了(医学博士)、2005年より同分野助教を経て2010年より現職に。

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