歩き方は、メンタルも変える!?

特集/歩くチカラを見直そう

山口光國(理学療法士)
取材・文/大庭典子(ライター)

Image 第1回、2回でお伝えした正しい歩き方、実践してみましたか?「歩いているうちに、ついいつものクセが出る」「意識すると歩きづらい」...など、最初はなかなかうまくいかないという声が多く届いていますが、正しく2,000歩歩ければ、美しい歩行が生涯自分のモノになるというのだから、最初がガマンのしどころ。しかも、正しい歩行は、心理的にもいい影響があるのだとか。引き続き山口光國先生にお伺いしました。

「姿勢と心理には、深いつながりがあるのです。心理学者の春木豊先生が行った実験によると、同じ音楽を、下を向いて聞かせると暗くてスローな曲に聞こえ、顔を上げると、アップテンポで明るい曲に聞こえた、という驚きの結果があります。こうして歩き方で気分が変わるように、反対に気分が歩き姿にも顕著に表れているのです。

同じ人でも落ち込んでいる日といいことあった日では、まったくフォームが違う。恋人とケンカしてとぼとぼ歩いている日(笑)、仕事で誉められて快活にシャキッと歩いている日、歩き姿を見ればその人が今どんな気分なのか一目瞭然

この法則を利用して、姿勢から感情を前向きにシフトすることもできると考えています。『よし、これから前向きになろう』と気合いで変えるのは、なかなか難しいですが、姿勢を正しく変えれば、前向きな感情を引き出すアシストになります。

また、アメリカの犯罪心理学では、"手を横に開いたまま、体の傍につけずに歩いている人、手を振らずに足だけ動かしている人は犯罪に巻き込まれやすい"という実験データも。歩き方というのは、本人が思っている以上に、性格や気分、自信の有無なんてことまで現してしまうんです。歩行は健康だけじゃなく、社会性のバロメーターとも言えるでしょう。

もうひとつ。正しく歩くうえで大切にしてもらいたいのは、道具。つまり靴ですね。靴は2日連続履きがギリギリで、3日連続はアウト。靴がその人の歩き方を覚えてしまうので、悪いクセが治りづらいんです。履かずに体重をかけなければ、靴は自然に復元しますので、連続で履かず、休ませてリセットをかけることが重要。お気に入りの靴であればあるほど、連続履きはNGですよ。

新しい靴を購入する際のポイントは、パンプスであれば、ソウルの部分を折り曲げて、いちばん幅の広い部分でくっと曲がるもの。靴をねじったとき、固すぎてあまりねじれないのもよくありません。また、かかとのホールドがしっかりしたものを選ぶのも大事。かかとのないミュール系は、足の回転が悪く、引きずって歩いてしまうので股関節が固くなりがち。ミュールのときは歩幅を狭くするなど、負担をかけないよう気をつけてください。

靴ももちろんですが、歩行をサポートするガードルも正しい歩き方を促す道具としてとても有効です。正しい歩行は、前足を出すことよりも、後ろ足の動きや力の抜き入れが大事だとお話しましたね。たとえば、クロスウォーカーの太もも部分にある×(エックス)模様のクロス構造は、この部分が支点になって、後ろ足が使いやすくなるのです。歩行に大事な後ろ足で押す、という感覚が自然につかめて、足を曲げるまでの"ため"が上手につくれます。

また、股関節を支えるフィットネスウォーカー(ドーナツライン構造)などは、骨盤が横にいきすぎたら戻し、前にいきすぎたら戻すというように、骨盤を常に基本のポジションに戻してくれるのでいろいろな方向にやわらかく使うことができ、骨盤のコントロールがよくなります。結果、正しい歩行へと誘導されます。美しい歩行には、きれいに動く骨盤が必須。骨盤が固く自在に動かせないと、足を引きずるような歩き方になってしまうのです。歩き姿も老けて見えてしまうでしょう。 Image 正しい歩き方が身につき、下腿筋(かたいきん)の働きや脛骨(けいこつ)の動きがよくなると、循環が促されて血流もよくなりむくみも解消します。また、後ろに足を押すという感覚で歩くと、ヒップアップにもつながりますし、筋の活動量も上がり、基礎代謝もアップ、ダイエット効果も期待できますよ」

美ウォーキングには、心の健康、体のメリハリ効果、代謝アップなど、うれしいご褒美が盛りだくさん! 是が非でも、モノにしたいですね。目指すは"正しく2,000歩を!"

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山口光國
(セラ・ラボ代表/理学療法士)
日本サッカーリーグの日立製作所(現 柏レイソルズ)にFWとして入団。故障から21歳で引退し、現職へ転身。昭和大学藤が丘リハビリテーション病院を経て、'05年より横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)にフィジカルコーチとして就任。現在はさまざまなジャンルのアスリートをサポートするほか、全国各地で講演、セミナー活動も行う。

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