ウォーキングで心臓が鍛えられる?!

特集/歩くチカラを見直そう

先生/森谷敏夫(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

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歩行スピードと生存率に深い関係が!

気分よく風をきって颯爽と歩ける日もあれば、気持ちが沈んでいるときは、とぼとぼ歩きで歩幅も狭くなりがち...。同じ人間でも、体調や気分で歩行スピードにばらつきがありますよね。実は、このウォーキングのスピードを巡って、最近発表された話題の研究データがあるのです。

「アメリカで行われた研究でとても興味深いことがわかりました。約34,000人を21年間追いかけて、膨大なデータを分析した結果、歩行スピードと生存率には深い関係があることが発表されました(The Journal of the American Medical Association 2011より)。歩行スピードが速い人ほど、高齢になっても生存率が高かったのです。

速く歩けない理由には、心臓、肺、股関節、など治療が必要な病気も含まれますが、自力でどうにかできる"肥満"もそのうちのひとつ。太って体が重くなると、歩くのが辛くなり、当然スピードも落ちます。たかが肥満と軽く思われがちですが、歩行スピードに支障をきたすということは、大問題だと思ったほうがいい。寿命にまで影響するかもしれない深刻なことなんです」

歩くスピードと生存率が関係しているだなんて衝撃...。ちんたら歩くのはやめて今のうちから、早歩きのくせをつけておけば、長生きできるかも!?

スピーディな歩行にはうれしい効用が

Image 「私たちの体には、常に全身に血液が流れていますが、その血液を回すモーター役は、言わずもがな心臓。全身を巡った血液は再び心臓に戻るわけですが、前回、ウォーキング時はエネルギーが3倍必要だと言いましたね。エネルギーを多く消費するということは、心臓に戻っていく血液も安静時よりたくさん必要だということ。だとすれば、血液をまわすモーター(心臓)が丈夫じゃないと、多くの血液を戻せないでしょう。逆に言えば、ウォーキング時は、安静時に比べてモーターの活動も盛んになるので、心臓が鍛えられているとも言えるのです。

もちろん歩行スピードに関しても、速く歩けば、その分心臓にかかる負荷も大きくなり、心臓に返っていく血液も増えます。結果、ゆっくり歩くよりも心臓は鍛えられます。どんなに外見がピカピカの車だって、モーターが弱ったら、動かなくなってしまいます。人間も同じ。いつまでも丈夫に動くよう、モーターをチューニングする作業が歩くことだったり、走ったりということなんです。

心臓にある程度の負荷がかかる速い歩行は、心臓を鍛えるだけじゃなく、血圧を下げる、という効用もあります。心臓が早く打てば、血液をたくさん回さなくてはならないので、運動中血圧が高くなってしまう。そうなると、自浄作用が働いて、心臓自らが血圧を下げるホルモン(心房性ナトリウム利尿ペプチド)を出し、このホルモンがガンの浸潤や転移の予防になると言われています。まさに、ウォーキングは体にとっていいことづくし! ウォーキングに出かけるとき、"心臓鍛えなくっちゃ"と考えれば、簡単にやめられないはず。階段を見たら"ありがたいわー"って拝むくらいでないとね(笑)。からだがしんどくない程度の早歩きを、今日から意識してみるといいでしょう」

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森谷敏夫
(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、PhD)。テキサス農工大学大学院助教授、カロリンスカ医学研究所客員研究員(スウェーデン政府給費留学)などを経て、2000年より現職。専門は、応用生理学とスポーツ医学。60歳を超える今も、体脂肪率は驚異の9.8%。明朗快活な人柄も人気で、面白く、ためになる講義は大盛況。著書は『メタボにならない脳のつくり方』(扶桑社新書)など多数。

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