
眠らない人はかっこいい?
あなたはふだん何時間くらい眠っているだろうか。そして、ほんとうは何時間くらい眠りたいと思っているだろうか。睡眠時間は長いほどいいと信じていた私は、ほとんどの人が「できればもっと長く眠りたい」のではないかと想像していた。たとえば「ふだんは6時間睡眠でガマンしているけど、ほんとうは毎日8時間眠りたい」というように。だが、世の中には「できればもっと短く眠りたい」と思っている人もいるらしいのだ。
たしかに「コスパ」や「タイパ」が求められている今、向上心を高く持つならば、惰眠をむさぼっているわけにはいかない。要するに、良質な睡眠を効率よくとることで、長く眠ったときと同様の満足感が得られればいいのだから。でも、はたしてそんなことが可能なのか? と考えたときに頭をよぎるのが「ショートスリーパー」という迷いなきポジティブな言葉である。まるでエスパーやスナイパーといった特殊技能者のようではないか。ショートスリーパーたちはきっと、短時間の眠りですっきり疲れを取り、驚くべきパフォーマンスを発揮できてしまうのだろう。
しかし、一方で「ロングスリーパー」という魅惑的な反対語があることにも気がついてしまった。そこには「惰眠をむさぼる人」という怠惰なニュアンスは感じられない。ロングスリーパーたちはきっと、多忙な日々においても長時間睡眠を堂々と楽しみ尽くす、リラクゼーションのエキスパートであるに違いない。さて、私たちは、迷いなきショートスリーパーと魅惑的なロングスリーパー、どちらを目指すべきなのか!?
短眠も長眠もラクじゃない
彼らは、具体的な数字としてはどのくらい眠っているのだろう。ショートスリーパーとロングスリーパーの定義は諸説あるようだが、厚生労働省が策定した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、成人の睡眠時間は、個人差はあるものの「おおよそ6〜8時間が適正と考えられる」とのこと。仮にそこからプラスマイナス1時間程度を個人差とすると、5時間以下ならショートスリーパー、9時間以上ならロングスリーパーと名乗ってもいいのではないかと思う。
ショートスリーパーの例としてよく聞くのが、早食いでも知られるナポレオンの3時間睡眠だが、彼は1821年に51歳で亡くなった。200年以上前の話である。そこまでさかのぼらなければならないほど、ショートスリーパーは珍しいのだろうか。そういえば身近にも4時間睡眠の人がいるが、話を聞いてみたところ「週末に寝だめしている」と言っていたしな…。ショートスリーパーは遺伝的要因が大きいともいわれており、訓練で簡単になれるものではないのかもしれない。
他方、ロングスリーパーのほうは、1955年に76歳で亡くなったアインシュタインの10時間睡眠が有名。最近では「大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手や将棋の藤井聡太名人が1日10時間眠ると語り、睡眠が改めて注目されている」(朝日新聞デジタル2024.10.12)という記事を読んだ。ちなみに「ストレートで9時間は爆睡できる」と豪語している私の友人は、口をあけて眠るため、目覚めたときに喉がカラカラになっていてつらいと言う。ロングスリーパーにも悩みはあるのだ。
からだの芯からしあわせに!
結論としては、ロングでもショートでもなく、体質に合った適切な睡眠をとればいいのでは? ということに落ち着きそうだ。おそらく「ショートスリーパーvsロングスリーパー」の議論に終止符を打つのは、時間よりも眠りの深さに重きを置く「グッドスリーパー」。深い眠りを意味する「ぐっすり」という言葉は「グッドスリープ」から生まれたという説もあるくらいだ。
健康意識が高まっている昨今、腸活や菌活、筋活や骨活などが流行しているが、個人的に興味をそそられるのは、グッドスリープのための「眠活」と、からだを温める「温活」である。睡眠科学の「ふわごころ®パジャマ」やYOJOYの「ぽかふわルームアイテム」などは、ネーミングからして気持ちがよさそうなので、冬ごもりにぴったりだと思う。
そう、寒い季節をここちよく過ごすお手本は、夏毛から冬毛に生えかわり、もふもふになる動物たち。間違ってもAI(人工知能)をお手本にしてはいけないのだ。いくら睡眠時間を削ってタイパの向上を目指しても、まったく眠らないAIに勝てるはずがないし。ならば、人間味ゆたかな仕事をするためにも、AIにはない身体感覚や体温の調整を楽しみながら、グッドスリープを満喫したい。
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相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
冬は甘口のお酒がおいしい。日中はノンアルの甘酒、寝酒にはホットワインか養命酒がおすすめ!
イラスト/白浜美千代
デザイン/WATARIGRAPHIC