今月のコトバ「おうちウェア」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
今月のコトバ「おうちウェア」

おうちウェアが流行っている

おうちウェアとは、家の中で着る衣服のことだ。一般には、ホームウェア、ルームウェア、部屋着などといわれ、家着(いえぎ)、普段着とラフに表現されることもある。また一方では、室内着、化粧着という少し改まった言い方もある。だけど今、それらを差し置いて、なぜか「おうちウェア」。かなり独特なコトバだと思うが、今春のステイホーム期間にじわじわと好まれるようになったのである。

「おうち」という丁寧な和語に、「ウェア」というおしゃれな外来語をしれっと結びつけた「おうちウェア」。日本語ならではのハイブリッドな荒技によって生まれたこのようなコトバを、混種語という。部屋着をおうちウェアと呼ぶ現象は、間食をおやつタイム、抹茶牛乳をお抹茶ラテと呼ぶようなもの。ひらがなとカタカナのやわらかいイメージのおかげで、ワクワク感が倍増することは間違いない。

しかし、冷静に考えると「おうちウェア」なんて、ふわふわしてくすぐったいわと感じる人もいるだろう。その場合は、漢字に変換してみるといいと思う。おうちとは、もともと他人の家を敬う表現であり、「御家(御内)ウェア」と書けばレトロな重厚感が出る。西洋風の優雅さを求める人には、室内着や化粧着の英訳である「ラウンジウェア」や「ドレッシングガウン」というコトバをおすすめしたい。

おうち時間のすごしかた

おうちウェアは、おうち時間とセットで使われることが多い。おうちウェアで過ごすおうち時間に何をするかというと、たとえば「おうちごはん」や「おうちパーティ」である。もちろん、ほかにも用例はたくさんある。おうちカフェ、おうちグルメ、おうち遊び、おうちデート、おうち美容、おうちトレーニング、おうちシアター、おうち音楽、おうちキャンプ、おうちリゾートetc……。もはや、おうちでできないことは何もないかもしれない。

「おうち」をつけることで、おままごと遊びのようなごっこ感が生まれるが、逆に、そういうのが照れくさい人は、ラフなコトバを使う傾向があるようだ。イベント好きな家庭なら、こだわりの「おうち居酒屋」を企画するのも楽しそうだが、面倒な人は「家飲み」「宅飲み」で十分なのである。

ちなみに「宅飲み」は、デジタル大辞泉によると「俗に、仲間のだれかの自宅に集まって開く飲み会のこと。安上がりで気楽という利点がある」とのこと。人を集めずに、ひとりで宅飲みするのは少々寂しいような気もするから、ひとりで飲む場合は、やっぱり「おうち飲み」だな!

幼児語のしあわせな魔法

おうちというコトバは、丁寧語であると同時に幼児語でもある。やさしくあたたかいコトバは脳に喜びを与え、愛情や愛着を育むポイントとなる脳内ホルモンのひとつであるオキシトシンの生成を促すというから、幼い子どもに幼児語で話しかけることは大切かもしれない。「うちで寝よう」と言われるより「おうちでねんねしよう」と言われたほうが、しあわせに眠れそうだし。

全国の幼児語の分布や語源を調べた幼児語辞典(そんな辞典があるのだ)を眺めていると、たしかに気持ちがゆるんでくる。やさしくあたたかいコトバを必要としているのは、幼児だけではないのだろう。からだ用語でいいなと思うのは、なんといってもオナカを表す「ぽんぽん」で、これは全国どこでも通じるようだ。アタマは全国的には「おつむ」か「てんてん」だが、地方によっては「のんのん」「つむつむ」「おちゅむ」ともいうらしい。ミミにいたっては「おみみ」「みーみ」「みみこ」「みんみ」「みんみん」「みんみみんみ」など、友だちのよう。セナカを「せなせな」というのもカワイイな。

全体の印象として、繰り返しのコトバって、わかりやすくて楽しいと思う。こちょこちょ、きれーきれー、いーこいーこ、やきやき、もぐもぐ、おいちーおいちー。やさしいコトバを繰り返すことで、脳内しあわせホルモンの生成がぐんぐん促されそうなので、あなたも積極的に使ってみてはいかがだろうか。というわけで、このへんで、ばいばいです。よみよみしてくれて、あっとー!(ありがとう)

  • 相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
    疲れたときは、味覚的にも語感的にもベトナム料理に癒される。
    フォー、ブン、ミー、チャオ、ソイ、ラウ……とくにデザートのチェーは最強!