今月のコトバ「ツーウェイ(2way)」
文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
魅惑のツーウェイ下着
ツーウェイ(ツーウエー、2way、two-way)は、2通りに使えるという意味。ノリのいいリズムでお得な気分が伝わってくる言葉だなと思う。ウェイは道、方式、使い道という意味だが、「ツー」という長音に引きずられるようにして「うぇ〜い」と発音してみると、なんだか楽しくなってくる(気がする)。
私たちの身近にあるツーウェイといえば、まずは「ツーウェイファッション」だろう。気分や状況に合わせて2通りに変化させることができる服のことだが、大辞泉にはこの言葉の具体例として「裏地を取り外せるコート」「晴雨兼用のオールウエザーコート」の2つのアイテムが挙げられていた。大辞泉はなぜかコートが好きなようだが、当コラムは下着が好きなので、下着のツーウェイの例を挙げてみたい。
たとえば最近人気の、前後どちらを前にしても着られるキャミソール(=ダブルフロントキャミソール)。そして、産前・産後兼用のマタニティブラ(=2Wayマミーブラ)。水着では、裏返すとデザインが変わるブラも登場した(=リバーシブルブラ)。そもそもストラップを着脱できるブラや、パッドの取り外しができるブラはツーウェイといえるし、「見せてもいい下着」なんて、ツーウェイの極みではないだろうか。下着というジャンルはツーウェイの宝庫だ。
2つの能力をもつということ
世の中には、ツーウェイ人間というべき天才も存在する。性質の異なる2つの物事をひとりでやってしまう、いわゆる「二刀流」である。投手も打者もこなす野球の大谷翔平選手によって、誰もが知る言葉になった。
ひとつのことを極めるのも大変なのに、ふたつのことを極めるなんて凡人には到底ムリ。しかし「二刀流」には、実はもうひとつの意味がある。「酒も甘い物も両方好きなこと」も二刀流と表現するのだ。ああ、それなら私も二刀流だわ! と喜ぶ人は多いだろう。「甘口の下着も、辛口の下着もどっちも好き」という人も、もはや二刀流の一派といっていいだろう。
二刀流がエスカレートして、ふたつの職業をもつ人もいる。俗に言う「二足のわらじ」だが、その意味は「同じ人が本来は両立し得ないようなふたつの職業をもつこと」。近い分野の仕事の掛けもちや、本業のほかに趣味的な活動をしている程度の人は、厳密にいえば二足のわらじを履いているとはいえない。「産婦人科医であり天才ジャズピアニストでもある」というような人こそが二足のわらじのお手本だが、そんな人はTVドラマの中にしかいないような......。
驚きのツーウェイ女優
ひとつの職業で、二足のわらじを履けるのが俳優という仕事だ。自分とまったく異なるキャラクターを演じるのはなかなか大変なことだと思うが、最近驚いたのが、『心と体と』という作品でヨーロッパ映画賞の最優秀女優賞に輝いた、アレクサンドラ・ボルベーイという女優である。
彼女は、コミュニケーションが苦手で社会になじめないマーリアという孤独な女性を演じていた。浮世離れした美しく静謐なたたずまいが心に残る役柄である。監督によると、ふだんの彼女はマーリアとはあまりにも違うセクシーでパワフルな女性なので、起用には躊躇したそうだが、才能を信じた結果、演じるというよりは「他の何かになってしまった」という変貌ぶりだったらしい。映画の上映後に本人が舞台に登場すると、観客が皆、とてもショックを受けるというほどだ。
役づくりのため監督は、いつもハイヒールの彼女にフラットシューズで歩くことをアドバイスし、実際にその靴で歩いてみた時に「不思議な感覚があったんだろう」と言う。いい話だ。この不思議な感覚こそがファッションの力。ヒールの有無、ブラのパッドの有無、ストラップの有無で、見える世界は変わってくる。ツーウェイファッションは、女優の道につながっているのだと確信した。
相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画愛好家。
好きなネット用語は「パンくずリスト」。自分が今どこにいるのかを示す階層表示のことだが、ヘンゼルとグレーテルが森で迷子にならないよう通り道にパンくずを置いていったエピソードに由来すると知り、キュンとした。