今月のコトバ「効き目」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「効き目」

結局、何が効いたのか?

効き目とは「ある働きかけや作用によって表れるよい結果」のこと。働きかけの代表は薬だが、食べ物、治療法、健康法、説教、願掛けなど、からだや心によい結果をもたらしそうなものなら何でもありだろう。「広告の効き目」「政策の効き目」といえば、ある戦略が世の中にもたらす結果のこと。期待通りの目標を達成できたなら、その働きかけは「効き目があった」といえるのである。

私たちのまわりには、あれが効く、これが効く、と効き目の誘惑がいっぱいだ。特に美容健康系のノウハウは、効き目合戦の戦国時代。悩みの数より効き目の数のほうが多いくらいだが、本当に効き目があるものは何なのかは曖昧だ。

たとえば風邪をひいた時。うがいをし、水分補給し、ビタミンCを摂り、おかゆを食べ、薬を飲み、よく眠ったおかげで、翌日すっかり元気になった場合、一体何が効いたのか? もしかして、よく眠るだけで治ったのかもしれないけど、次に風邪をひいた時に、どれかをすっ飛ばすなんて怖くてできない。治癒実績のあるフルコースを再び実行するしかないわけだ。

女子会で薬膳鍋を食べて肌がしっとりした場合も、どの具が効いたのか?と追求するのはムダだ。総合的な効き目と認識し、繰り返し女子会を開いて薬膳鍋を楽しもうではないか。もしかして、どんなシンプルな鍋でも、たとえそこに男子がいても、肌はしっとりするのかもしれないけれど。

恋愛のスゴイ効き目

手っ取り早くキレイになるには、いうまでもなく恋愛が効果的だ。恋をするとホルモンがどうというのもあるが、何よりも恋愛は「やる気の魔法」をくれる。いろんな美容法やダイエットを試し、顔やからだを磨きたくなるのだ。効き目が出始めたころには、素敵な下着を買いに走るだろう。だから、ラブラブハッピーな人の美容情報はあてにならない。あれもこれもやっている彼女がキレイになったのは、恋愛の効き目としか言いようがないのである。

だが悲しいことに、恋愛の効き目は長続きしない。恋愛がすぐに終わるのではなく(すぐに終わる場合もあるが)、魔法のような効き目は続かないということだ。まあ恋愛に限らず、効き目というのはだいたいが期間限定。即効性のある効き目ほど、収束も早いということはいえるかもしれない。

私も、期間限定のスゴイ効き目を体験したことがある。風邪をひいて全く声が出なくなった時だ。マスクをし、喉を温め、うがい薬や喉スプレーを試し、生姜湯を飲み、はちみつをなめ、安静にしていたのだが、そんな時に限ってフォーマルな電話をかけなければならない事態に陥った。焦って緊急対処法をググった結果、効き目があったのはオリーブオイル。カップの底に溜めたオイルを少しずつ飲みながら、1分くらいは何とか声を出すことができたのだった。ただし誰にでも効くとは限らないし、1分以上オイルを飲み続けるのはムリ!

効き目は暴力的である

即効性のある効き目をあらわす最強のワードは「イチコロ」であろう。殺虫剤のコピーを思わせるが、恋愛用語でもある。ノックアウト、悩殺、瞬殺、落とす、射貫く、骨抜きにするなどの類語があるが、効き目の周辺には、なんと乱暴な言葉が満ちあふれていることか。

「パンチが効く」という言葉もある。パンチとは人を強打することだが、パンチの効いた料理、パンチの効いた音楽、パンチの効いた企画など、ポジティブな刺激の意味にも使われるのだ。

「潰しが効く」という表現も荒っぽい。金属製品は溶かして別のものに再利用できることから、どこへ行っても通用する職業や技術のことを指す。人工知能に仕事を奪われるかもしれない近未来、潰しの効く技術とは何だろうか? 何は無くとも、効き目のある美容健康法で長生きしたいものである。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画愛好家。
好きなネット用語は「パンくずリスト」。自分が今どこにいるのかを示す階層表示のことだが、ヘンゼルとグレーテルが森で迷子にならないよう通り道にパンくずを置いていったエピソードに由来すると知り、キュンとした。