今月のコトバ「モテ部位」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「モテ部位」

モテ部位をもっと磨こう

最近、気になったコトバといえば「モテ部位」。ananの「恋に効くカラダ特集」で使われていた。日本語の4文字略語はリズミカルで癖になる。ブラジャーとパンツは「ブラパン」と略すと可愛いし、パンツ一丁を「パンイチ」といえばシュッとする。会話に取り入れやすい記号的なコトバになるということだ。モテるカラダの部位を「モテ部位」と略すだけで、「あなたのモテ部位はどこ?」と気軽に聞けるようになるのである。

ananによると、男性が好きな女性のパーツの王道は「胸」と「お尻」。でも、実はそれだけではなく、アンケートによると「髪」「太もも」「肌」「くびれ」「首筋・鎖骨」「ふくらはぎ・足首」「二の腕」「歯」「手」「肩・背中」にも、男性は思わず目がいってしまうらしい。女性のモテ部位は、胸とお尻以外にも、こんなにたくさんあるのだ。

では、これ以外は「非モテ部位」なのだろうか。たとえば、この中にはない「ひじ」「ひざ」「かかと」「爪」は、女性がお手入れをがんばりがちな部分だ。「眉」「まつげ」「唇」は、メイクのときに時間をかけがちな部分。だけど、男性は意外と見ていないのだろう。確かに、メイクを入念に盛るよりは、「肌」「歯」「髪」をキレイにしたほうが、手っ取り早くモテそうな気がする。

努力した部分をほめられたい

得意な部分を磨くのは楽しい。もともと美しい部分をさらに美しくするのは簡単だから。逆に、不得意な部分を磨くのは、なかなか効果が出なくて辛い。目立たない部分を磨くのも、効果が見えにくいから面白くない。

というわけで、結局は「モテ部位」よりも「好きな部位」を磨いてしまうのが女というもの。とりわけ、自分の目に入りやすい部分に力を入れたくなるのは当然だ。細部にこだわったネイル、まつげ1本1本の角度と長さ、眉のフォルムとグラデーション、リップの輝き具合などなど。

こういう楽しい努力を女はやめられない。ならば、がんばっている部分にもっと注目してもらうよう、男性にお願いするしかない。ほめ上手なフランス人男性には「女性の努力の成果にいち早く気付くDNA」が備わっているようだが、ごく普通の男たちは、見当違いな部分をほめてスルーされるばかりだ。

女性のほうも、男性へのアピールが必要だろう。「自信のある部分は?」と聞かれたら「胸のホクロ」「すべすべのかかと」など、あえて見えない部分をアピールしてしまうのもアリだ。「胸のどの辺なのか?」「どんな手触りなのか?」と妄想をかきたて、マイナーなパーツがモテ部位に昇格することは間違いない。

BBはモテ部位でできている

全身がモテ部位でできていると思われる女優がいる。1963年のゴダールの映画『軽蔑』のブリジット・バルドーである(日本語風に略せばブリバルだが、そうではなくBB(ベベ)と呼ばれている)。最近デジタル・リマスター版で見直したのだが、このときのBBは29歳。ものすごく美人というわけではないのに、小悪魔的なボディから目がはなせない。

『軽蔑』は、BBのプリっとしたお尻を鑑賞するための映画ともいわれているが、もちろん胸も脚も素晴らしい。ブロンドヘアやキャッツアイ、ぽってりした唇もセクシーで、全身の美しさやバランスよりも、ひとつひとつのパーツに目がいき、凝視してしまう。たくさんの男を翻弄してきた恋愛遍歴にも納得できる。

50年以上も前の映画となると、ファッションもスタイルも古く感じられるものだが、デジタル・リマスター技術は、1963年のBBの魅力を現代の魅力にアップデイトしていた。字幕も新訳だから、いまどきの女の子のようなのだ。そう、映像がキレイでも、セリフが古臭ければ一気に興ざめしてしまう。コトバもモテ部位のひとつではないかと、私は思っている。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画愛好家。
好きなネット用語は「パンくずリスト」。自分が今どこにいるのかを示す階層表示のことだが、ヘンゼルとグレーテルが森で迷子にならないよう通り道にパンくずを置いていったエピソードに由来すると知り、キュンとした。