今月のコトバ「ミドリフ(横隔膜)」
文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
ミドリフ丈が流行っている
ミドリフ (midriff)とは、緑色のお麩ではなく、
横隔膜のことである。ファッション用語として使われ、大辞泉には「横隔膜あたりまでの短い上着のこと。また、みぞおちのあたりが見えるほどの丈の海浜用のセパレーツ水着のこともいう」と書いてある。「海浜用」という古風な言い回しに軽くたじろぐが、今、上着も水着も下着も「ミドリフ(丈)」がブレイク中なのだ。
mid + riffなのにミッドリフではなく、ミドリフ。語尾を上げ気味に発音するとかっこいいですね(下げると「緑麩」になるし)。オールドイングリッシュではmidhrifと綴り、hrifがお腹を意味する言葉だったらしい。ミドリフ丈のブラといえば、ウエディングドレスの補整下着としての用途が定番だが、最近は、リラックス系のブラにもミドリフ丈が続々登場。タンクトップの上半分を意味する「ハーフトップ」という言葉が使われることが多い。
ふわっとしたミドリフ丈のアウターは、バストをカバーし、ウエストを細く、若く見せる効果もある。何より脚が長く、背が高く見えるのだ。今月始めのFNS歌謡祭では、薬師丸ひろ子が、ミドリフ丈の白のフリルトップスと黒のロングスカートを美しく着こなしていた。白いミニドレス姿の橋本環奈と一緒に「セーラー服と機関銃」を歌ったのだが、透明な声とミドリフ丈の効果はすばらしく、35歳差(!)とは思えない清純派対決であった。
横隔膜はハラミである
ミドリフの本来の意味である横隔膜については、最近驚いたことがある。薄い腹膜のようなイメージがあったが、人体のリアルイラストを見て、厚みと迫力があることに気付いたのだ。横隔膜は「哺乳動物の胸腔と腹腔とのさかいにある筋肉性の膜。伸縮して呼吸作用をたすける」(明鏡国語辞典)と説明され、その主要部分は内臓でも薄い膜でもなく、筋肉といっていい。
たしかに、牛の横隔膜が「ハラミ(腹身)」であることに思い当たれば、肉厚なのは当然かも。焼肉屋では内臓に分類されていることもあるけれど、味わってみれば、筋肉質な赤身肉であることは間違いなさそうだ。
横隔膜は、呼吸活動の7割を担っているという。『「横隔膜呼吸」でカラダの不調が治る!』(マガジンハウス)によると、全身の筋肉がほぐされると、使われていなかった横隔膜が動き出し、自然と深い呼吸ができるようになる。呼吸が変われば代謝機能が向上し、体質が改善。姿勢もよくなるという。しゃっくりが出たときだけでなく、ふだんから横隔膜を意識しなければ。
女性の美しさは安定感
先日、女性の美しさについて考えるワコールのイベントに参加した。「女性の美しさって何?」と問われ、ワン・ビン監督の映画に登場する女性を思い出した。貧しい地域の男たちをとらえたドキュメンタリーだったが、女性が画面に入った途端に空気が変わり、ものすごくほっとしたのである。男たちとは別の時間を生きているような、不変の宇宙が感じられたのだと思う。
女性の美しさとは、安定感。それが私の出した答えだった。周囲の環境に左右されない、地に足のついたバランスのゆるぎなさといったらいいだろうか。女性が普遍的にもっているのは、表面的な華やかさではなく、内面の強さではないかと思ったのだ。私たちが磨くべきは、この資質であると。
まずは、姿勢だよなと思う。よい呼吸、よい姿勢に横隔膜が大きく関わっていることはわかった。だが、自分の横隔膜がどこにどう存在しているのか、なかなかうまくイメージすることができない。ちゃんと動いてくれよ、と祈るような気持ちで全身の筋肉をほぐすしかない。あと、できることといえば......今夜は焼肉屋で肉厚ハラミを食べて、横隔膜に感謝するとしよう。
相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。