今月のコトバ「コスプレ」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「コスプレ」

世界にはばたく和製英略語

コスプレ(COSPLAY)は、コスチュームプレー(COSTUME PLAY)の略。和製英語かつ略語だから、軽いノリで使われがちだが、実は世界で通用する言葉なのだ。出版プロデューサーの高橋信之さんが1983年、雑誌の記事タイトルで使い、翌年米国のイベントで紹介したのだという。和製英略語のチカラは侮れない。

「ボブディ」という言葉を最初に聞いたときは、ボブ・ディランの略かと思った。まさかボブとミディアムの中間の長さの髪型のこととは想像できなかった。ボブディよりも長いスタイルが「ロブ」(=ロングボブ)で、最近は「セミディ」(=ミディアムとセミロングの中間の長さ)が流行っているとも聞く。じゃあ、ロブとセミディはどう違うのかと考え始めると眠れなくなる。

ファッションでは「ガウチョパンツ」の人気が著しい。ガウチョ(スペイン語)というカウボーイが着る七分丈のワイドパンツを指す言葉だが、その後「スカーチョ」(=スカートのように見えるガウチョパンツ)や「スカンツ」(=スカートのように見えるパンツ)が登場し、わけがわからなくなった。そういえば最近は「コーディガン」(=コートのようなカーディガン)も流行っている。

だが、何はともあれ、新しい言葉の誕生は温かく見守りたい。どんな和製英略語も、コスプレやPPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)みたいに、世界で通用し、愛される言葉になる可能性を秘めているのだから。

渋谷はコスプレのメッカ

というわけで、コスプレの話だ。日本がコスプレ大国であることを実感するのが、年々盛り上がっているハロウィンである。今年はハロウィン当日の10月31日が月曜だったため、すっかり油断して渋谷に出かけたら、身動きできないほど混雑していて驚いた。あとで見たニュースによると、31日の渋谷駅周辺には、週末の人出を上回る5万7千人以上が押しよせたという。

スクランブル交差点周辺は、仮装パーティのイベント会場と化していた。DJポリスはいなかったが、主役はやっぱりマイクを持った警察官。交通整理というよりは、信号が変わるたびに群衆をさばき、盛り上げているように見えた。

コスプレの脈絡のなさはカオスだった。魔女やゾンビなどの定番仮装から、人気のアニメキャラ、キュートなランジェリールック、解釈不能な独自の奇抜スタイルまで何でもあり。その点、次に盛り上がりそうなクリスマスのコスプレといえば、サンタ、トナカイ、ツリーくらいしか思いつかず、逆に安心だ。

重装備のときめき

クリスマスが終われば、次はお正月の晴れ着姿。いつもと違うものを着る行為は、すべてコスプレといっていいだろう。その高揚感は、はじめて着物を着た七五三の日に始まり、はじめてブラをつけた日、はじめてセーラー服を着た日にも訪れた。個人的なピークは、はじめてダイビングでウェットスーツを着た日かもしれない。ウルトラマンになったような変身感に酔いしれた。

一生の職業だって、制服に憧れて選ぶ人は多いのではないだろうか。他人の仕事についても、客室乗務員と聞けば、業務内容よりもどんな制服なのかがまずは気になるし、ホテルのベルボーイをやっていると聞けば「王子様みたいな格好してるんだ!」と勝手に妄想を広げてしまう。

先日カゼをひき、からだ徹底的に温めよというアドバイスに従い、比較的温暖な日なのに厚着をして出かけたことがあった。あったか下着、セーター、コーディガン、ニット帽、マスク、マフラー、ブーツのフル装備は明らかに周囲から浮いていたが、ハロウィン直後でもあり、ほのかにコスプレ感覚を楽しんでいる自分がいた。それまでは伊達の薄着で、寒い日も軽装を好んでいたので新鮮だった。今年の冬は、これで行こうかなと思う。中途半端な着ぶくれはカッコ悪いが、徹底的な重装備は、気分が上がりそうだ。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。