今月のコトバ「ガーターベルト」
文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
セクシーという機能
下着好きでありながら「ブラジャー」という言葉を知らない人はいないだろう。しかし「ガーターベルト」を知らない人は、いるかもしれない。「知っているが現実には見たことがない」という人なら、かなりの数にのぼりそうだ。
ガーターベルトとは何か。ジーニアス英和辞典には「ウエストで締める女性用靴下留め」とある。大辞泉ではさらに突っ込んで「ベルト状の布から4本のリボンを下げた形で、先端のクリップでストッキングを留める」と、使い方まで説明している。
要するにガーターベルトは、単体では機能しない。パンティストッキングが登場するまでは一般的だった「太ももまでしかないストッキング」を吊るための下着だ。ストッキングをクリップで留める作業を、カラダをひねりつつ4回も繰り返さねばならない面倒な代物。日本にパンティストッキングが普及した1970年代以降、ガーターベルトがマイナーになったのは当然だと思う。
だけど、ガーターベルトは今も現役だ。ワコールのウェブストアで検索すれば、いろいろなデザインのものがあり魅了される。もはや実用品ではないが、嗜好品としてセクシーに進化した。そう、セクシーというのは、現代における大事な機能のひとつ。面倒くさい男でもセクシーであれば許せてしまうように(そうでもない?)、ガーターベルトは「仕方ないわねえ!」とため息をつかれながらも、マニアックに愛される存在になったのである。
いとおしさと解放感
パンティストッキングをはけばラクなのに、わざわざガーターベルト用のストッキングをはき、ガーターベルトで吊る。この「わざわざ」がいいのだ。手間のかかる面倒な存在はいとおしく、愛着がわく。アナログなレコードを聴いたり、マニュアル車を運転したり、やんちゃなペットを飼ったりするのと似ている。
ガーターベルトをつけることは、装飾的な下着を1点追加することだから、余分なものをまとうストレスが予想される。だが、実際につけてみると、ショーツと太ももの間の肌が露出し、4本のリボンだけがストッキングを吊っている状態になる。この解放感は、パンティストッキングでは決して味わえないものだ。しかも、大切なショーツがつぶされず、美しく見えるメリットも。
着用するときの所作も然り。パンティストッキングをセクシーにはくのは難しいが、ガーターベルトは、がさつにつけるほうが難しい。っていうか、ていねいに着用しないとストッキングが落下するキケンが!
ガーターベルトは終わらない
ガーターベルトは、アンティーク感覚の嗜好品。消耗品ではない特別な位置づけのアイテムだから、集めたくなるし、ちょっとしたイベント感もある。ブラやショーツとは異なる「ベルト」としてのアウター的な性質ゆえ、他人に見せてもそれほど恥ずかしくない。彼氏にコレクションを披露して「今日はどれにしようかなあ?」と遊んでみたいものだ。
個人的にも、いろいろ実験してみたことがある。ガーターベルトでストッキングを吊り、その上にデニムをはいて外出したときの甘美な違和感は格別だった。誰もそんなことはやらないかもしれないけれど、下着って限りなく自由だ。先日、海外の新作で、ショーツをサスペンダーで吊った斬新なデザインのものを見た。ガーターベルトのDNAを受け継いだ新しい流れかもしれない。
現代は、なるべくモノをもたないことが流行っている。断捨離をしたり、使い捨てに近い大量生産品を着たり。でも、そんな時代だからこそ「とっておきたいもの」に特別な価値が生まれると思う。愛すべきものが家にあると、人生は豊かになる。
相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。