今月のコトバ「ペチコート」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「ペチコート」

ペチコートを買ってきて!

ペチコート(=ペティコート)とは、スカートの下に着用する、スカート状の下着のこと。アンダースカート、ハーフスリップともいい「スカートが透けるのを防ぐ」「スカートが脚にまとわりつくのを防ぐ」「スカートの形を保つ」などの目的がある。要は、スカートを美しく上品にはくための名脇役だ。

何年も前のことだが、仕事場で女友達に「スカートの透けが気になるからペチコートを買ってきて」と頼まれたことがある。客観的に見たところ一大事というほどではなかったが、本人は気になって仕方がないという。同性をピンチから救うという重大な使命を課せられた私は「まかせて!」と意気込んだものの、ペチコートの買物代行なんて初めてのことで、緊張した。

ペチコートは無事に見つかり、私が選んだものは彼女のスカートからはみ出ない絶妙な丈だったのでほっとした。「これでもう、いつ誰にペチコートの購入を頼まれても大丈夫だわ」と自信を得たものの、めったに発生しそうにないマニアックな案件だ。シースルーのスカートなども流行している今、スカートが透けると恥ずかしいという感覚をもっている人は、どれだけいるだろう?

主役だったペチコート

白いアウターのためにベージュのブラやショーツを用意しておくように、スカートの色や丈に合わせてペチコートを揃えておけば安心だと思う。しかし、そもそもペチコートを必要とするような繊細なスカートを私はもっていただろうか。主役がいないのに、前もって脇役を充実させておくのは本末転倒だ。

ところが下着の歴史をひもとくと、そんな認識は甘いことがわかる。ペチコートは脇役なんかじゃなかった。ベルサイユ宮殿を中心に貴族たちの社交生活が華やかだったヨーロッパでは、パニエという腰枠入りペチコートの上に多彩なペチコートを何枚も重ね着し、その上にドレスを着たという。

つまり、ドレスよりもペチコートのほうがたくさん必要だったのである。ドレスの長い裾をたくしあげるとき、当然ペチコートは見えるわけで、その美しい層を見せるための重ね着だ。下着道楽で知られるスペインの女性たちは、冬は豪華な装飾つきのペチコートを12枚以上もはいたという。まさに十二単。フラメンコの衣裳に、そのルーツが現れているような気がする。

脱ぐたびに愛が深まる

光文社から出ている『CLASSY.(クラッシィ)』という女性誌がある。いつ見ても思うが「男ウケ服」に関する情報が満載だ。私は、この雑誌をたまに買うという一般男性(ややコンサバ)を知っている。理由を聞くと、ここに出ているようなキレイなファッションの女性が好きなのだという。クラッシィを参考にすれば、一般男性(ややコンサバ)へのモテ度は確実にアップするはずだ。

そんな恐るべきモテファッション誌クラッシィの12月号に「愛が深まる『3段階レイヤード』を知っていますか」という記事があった。たとえばデートの待ち合わせにはライダースジャケットで登場し、クルマの中ではリラックスしたパーカー姿、夜のバーでは女っぽいブラウス姿に変身、とまあこんな感じ。「脱ぐたびに彼のハートをワシづかみ!」というわけだ。

私は、その後の展開を想像した。上着の3段階レイヤードのあとは、下着の3段階レイヤードを決行すれば、愛はさらに深まるのではないか。女たちは「せっかくの勝負下着をカレは全然見てくれない」と嘆くが、ゴージャスなペチコートを重ね着したら、カレはどういう反応を示すだろう。脱ぐたびに感動されるだろうし、少なくとも笑いはとれるはず。「男は女の下着に興味がない」と決めつける前に、私たちには、まだまだやるべきことがある。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。