「汗が噴き出す」「止まらない」なら、皮膚科受診も選択肢に

特集/2022年夏、汗対策の最新事情

先生/藤本智子(池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長)

---- 気温も湿度も高くなるこれからの時期、電車でつり革を持ったときの脇の下、長時間履いた靴の中など、ふとしたときに、気になる汗の存在。自分の意思ではコントロールしにくい汗と、上手につきあうには? 汗の疾患に詳しい池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長の藤本智子先生にうかがいます。

「汗が噴き出す」「止まらない」なら、皮膚科受診も選択肢に

人はどんなときに汗をかく? 発汗の原因を知る

春は、「汗」に関する悩みを抱えた患者さんが増える季節です。気温が上がってきて薄着になることで汗が気になり始める方、新生活での環境変化で緊張し、汗を大量にかいて困っている、という方も増えています。脇の下のいわゆる脇汗、顔まわりの汗、背中をツーッと伝う汗など、汗をかきたくないシーンでの発汗による不快感は、特に女性に多い悩みです。

汗の主な役割は体温調節です。体温が平熱よりも高くなってしまったときに、「汗腺」という器官から汗が分泌されます。その汗が、皮膚の上で蒸発する際に熱を奪い、からだの表面を冷やすことで、体温を平常に保ってくれるわけです。暑い夏に汗をかかないでいると、からだの中に熱がこもって熱中症になりますよね。命を守るために、汗は絶対に必要なものなのです。

同時に、汗は精神的な活動によっても分泌が促されます。患者さんの悩みで多いのが、緊張を感じると大量の汗をかいてしまう、というもの。たとえば、プレゼンのときに緊張して汗をかき、恥ずかしい思いをした。すると、その次のプレゼンでも、同じように汗をかいてしまう。そのうち、プレゼンのことを考えるだけで、大量に発汗してしまう…。こうなると、仕事のパフォーマンスにも影響が出てしまいます。

また、女性はホルモンバランスも発汗に影響すると思います。月経がある年代なら基礎体温の変化や、PMSで気持ちが不安定になることで汗をかきやすくなったりします。更年期には、ホットフラッシュと呼ばれる上半身中心の発汗が見られますが、これも、複合的な要因はあるものの、ホルモンバランスのくずれによるものでしょう。

大量の汗で生活に支障をきたす「多汗症」も

このように、人はさまざまな場面で汗をかくわけですが、困るのはその“かき方”です。

「多汗症」は聞いたことがあると思いますが、その中でも最近特に注目を集めているのが「原発性局所多汗症」という汗の疾患です。頭部や顔面、手足、脇の汗が多いことで、生活に支障をきたしている状態をさします。特にどこまでが通常で、どこからが多汗、という定義はなく、本人が「汗が多くて困っている」と感じているのなら、それは、多汗症の症状であると言えます。「脇の汗で冬でも衣服がぐっしょり」「顔から大量に汗が出て人前に出られない」など、汗が出る場所やその量は、患者さんそれぞれに異なります。

近年、日本に限らず欧米の先進国では、清潔志向というか、汗を嫌う社会のムードが非常に強くなってきていると感じます。そのため、汗が気になってパフォーマンスが落ちたり、気分がふさいだりするということが起こりうる。特に20〜50代の働いている年代で見られる傾向です。そして、病院にいらっしゃるのは、男性よりも圧倒的に女性が多いのです。

近年、こうした社会的背景のなかでできたのが、多汗症の治療薬です。汗の量にかかわらず、その人の置かれた状況、立場のなかで「不快である」「生活に支障がある」と思うのであれば、病院での治療が保険適用内でできるようになりました。

ただ多汗症自体、2000年に入ってから病気として認知されたものですし、「汗くらいで病院に行くなんて」という感覚もあって、医療側も患者さん側も、まだまだ過渡期にあるのが現状です。かつて、ニキビが「青春のシンボル」なんて呼ばれて、病院で治すという意識がなかったことと同じですね。

多汗症によって仕事のパフォーマンスが30%ほど低下するというデータ(※)もあるほど、深刻な事態となっている場合もあります。学生の患者さんで、「テスト中に手の汗で答案用紙が濡れて破れてしまう」というケースもあり、テスト中にハンカチを使う許可をとるために診断書を書くことも。お困りなら、皮膚科に相談してみるとよいでしょう。

※Murota H, et al.: J Dermatol. 2021; 48(10): 1482–1490. より
----現代日本では、汗による不快感は多かれ少なかれ誰もが感じているもの。自分ではコントロールできないことだからこそ、その仕組みや対処法を知っておくことは安心につながります。次回は、汗による困りごとを軽減するための対策を教えていただきます。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 藤本智子
  • 藤本智子 池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長。浜松医科大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学皮膚科入局。関連病院を経て、2005年より東京医科歯科大学皮膚科助教、2011年より多摩南部地域病院皮膚科医長、2014年から都立大塚病院皮膚科医長として勤務。2017年に池袋西口ふくろう皮膚科クリニックを開院。赤ちゃんから高齢者まで、あらゆる皮膚のトラブルに対応している。皮膚病になる前の未病・予防にも力を入れる。