簡単、気持ちいい。姿勢を整える「ねたままストレッチ」

特集/美しい姿勢で美しく生きる!

先生/山口正貴(東京大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士)

---- 前々回前回と、美と健康の根幹をなす「姿勢」と「背骨」について理解を深めてきました。では実際、今の自分の姿勢はどういう状態で、どんなセルフケアをしていけばいいのか、具体的に知りたいところです。理学療法士の山口正貴先生に、姿勢のセルフチェックの方法と、おすすめのストレッチを教えていただきました。

簡単、気持ちいい。姿勢を整える「ねたままストレッチ」

ねこ背? 反り腰? 姿勢をセルフチェック

不調にならない、という意味での「からだによい姿勢」をつくるには、なによりも「動くこと」です。今、新型コロナの感染拡大以降、首、肩、腰が痛いとおっしゃる患者さんが増えました。きっかけを尋ねると、ご本人は「思い当たらない」とおっしゃいますが、詳しくお話をうかがっていくと、リモートワークなどにより、活動量が減った、同一姿勢を長くとるようになった、歩かなくなった、という方がとても多い。「動かなくなった」ことで、姿勢を支える筋力と柔軟性が低下しているのです。

筋力は、前々回にお話ししたように、背筋を伸ばした「よい姿勢」をするだけでも鍛えられます。座っているときでも、立っているときでも、どこにいてもできることです。疲れを感じるまでよい姿勢を保持したら、楽な姿勢に変える。これを繰り返してください。

柔軟性を高めるためには、ストレッチが重要です。座り続ける、スマホやパソコンを見続けるなど、長時間同じ姿勢でいることが習慣づいてしまうと、関節はどんどん硬くなっていきます。曲げると反る、前後左右逆の動きをする、など、関節を最大限に動かして、可動域を少しずつ広げていきましょう。

理想的な姿勢は、背骨がきれいなS字を描いている状態です。チェックの仕方は簡単です。身長を測るときのように、あごを引き、壁を背にして立ちます。このとき、かかと、お尻、肩甲骨、後頭部が、無理なく壁についていればOK。壁から頭が離れていたり、頭はついていてもあごが上がっているなら、ねこ背です。

さらに、腰と壁の隙間に手の平を差し込んでみて、ちょうど1枚分入るくらいのスペースがあいていれば、背骨は正しいS字になっています。腰と壁の隙間に手の平が2枚入る人は、反り腰です。手の平が入らない人は、腰が平たくなってしまっています。

時々、セルフチェックをして、自分のからだの状態を確認するとよいですね。

気軽に続けられる「ねたままストレッチ」

筋トレもストレッチも、続けることが大切です。できれば20代の時期から、将来への貯金のつもりでやっておくといいと思います。週に1度でも続ければ、状態を維持することができます。30代、40代になると、特に女性はライフスタイルの変化も大きく、忙しくなって安定したセルフケアの時間が取りにくくなりがちですが、1日1回、10秒でもいいので、筋トレでもストレッチでも、とりあえず毎日やるという意識をもつことが大切です。

もちろん、実際には1回、10秒では足りません。でも、やる気スイッチが入りやすくなります。「やらなくちゃ」と精神力で行動する状態から、考えなくても自然にできる、“ながら”でできる状態までもっていければ、いちばんいい。

そこでおすすめしたいのが「ねたままストレッチ」。寝たまま行う4種類のストレッチで、「じる」「オルを使う」「げる」「んがなどを読むようなポーズ」の、頭文字をとった「ねたまま」にもなっています。最も重要で、すべての基本となり、しかも簡単なストレッチです。

じるストレッチ」
ねじるストレッチ 仰向けになり、右ひざを立てる。
右ひざを左に倒し、左手は右ひざの上に添え、右腕はバンザイする。
目標は右肩と左ひざが床につくこと。
脱力し、深呼吸をしながら10秒保持。反対側も同様に、左右各3回。

オルストレッチ」
タオルストレッチ タオルを細長くして持ち、仰向けで片足の爪先に引っ掛ける。
ひざを真っ直ぐに伸ばし、腕の力で足を引き上げる。
目標は足の裏が天井を向くこと。
腕以外は脱力し、深呼吸をしながら10秒保持。反対側も同様に、左右各3回。

げるストレッチ」
まげるストレッチ 仰向けになり両ひざを立てる。
頭は床につけたまま、片ひざずつ抱えて、両ひざを抱える。
目標は太ももが胸につくこと。
腕以外は脱力し、深呼吸をしながら10秒保持。深呼吸を3回繰り返す。

んがストレッチ」
まんがストレッチ うつ伏せになり、ひじを立てる。ひじは肩の真下にくるように。
ひざを曲げて両かかとをつける。うつ伏せでまんがや本を読むようなポーズ。
目標はこのポーズが楽にできること。
深呼吸をしながら10秒保持。深呼吸を3回繰り返す。

どのポーズも、重力に身を任せ、手足の重みで自然にストレッチされるくらいで十分。目標に達しないからといって、痛みを感じるほど無理にやってはいけません。

うれしいことに、ストレッチは、「できるときにやる」くらいでも意外に効果が残ります。サボってしまっても、またやれば大丈夫。楽な気持ちで、まずは「ねたまま」始めてみてください。真の「よい姿勢」への第一歩になるはずです。

----「動くこと」も「動かない」ことも、無意識のうちにしているさまざまな動作が、私たちのからだに大きな影響を与えているということに改めて驚きました。「よい姿勢」「しなやかな背骨」のために、できることから始めましょう!

取材・文/剣持亜弥
イラスト/中根ゆたか
  • 山口正貴 撮影/高山浩数
  • 山口正貴 東京大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士。東京理科大学理学部在学中にぎっくり腰を患い、リハビリテーションに関心をもつ。卒業後、理学療法士の道へ進み、2005年に理学療法士国家資格を取得、東京大学医学部附属病院に入職。2007年より千葉県福祉ふれあいプラザ介護予防トレーニングセンターで予防事業を兼任。腰痛の研究も行っており、2016年の研究論文で日本理学療法士学会の第8回優秀論文表彰で優秀賞を受賞。メディアへの出演多数。著書に『「ねたままストレッチ」で腰痛は治る!』(集英社)、『姿勢の本―疲れない!痛まない!不調にならない!』(さくら舎)、『背骨の医学』(さくら舎)などがある。