一生のおつきあい! 乳房と女性ホルモンの深い関係

特集/美胸の保ち方

先生/島田菜穂子(ピンクリボン ブレストケア クリニック表参道 院長)

---- 形や大きさ、ハリといった“見た目”ももちろん、“健やかである”ことも、「美胸」の大切なポイントです。年齢とともに変化する乳房の状態を自身で把握し、適切なケアをすることは、「美胸」を保つための第一歩。そこで、日本におけるブレスト(乳房)ケアの第一人者である島田菜穂子先生にお話をうかがいました。まずは、乳房に深く関わりのある女性ホルモンについて教えていただきます。

一生のおつきあい! 乳房と女性ホルモンの深い関係

思春期から更年期まで、乳房に深く関わる女性ホルモン

乳房や女性のからだを理解するために知っておきたいのが、ホルモンのことです。ホルモンは、人間のからだに備わっている特別なコントロール機能で、外界からの刺激に反応してからだの中で常に変化し、さらには複数のホルモンが互いに制御しあいながら働いています。心とからだの両方からコントロールを受けてさまざまなホルモンが分泌され、逆に、ホルモンの分泌によって、心とからだはコントロールされているというわけです。

なかでも、乳房に深く関わりがあるのが、下垂体、卵巣、副腎などから分泌されるホルモン。特に、主に卵巣から分泌されるエストロゲンプロゲステロンと呼ばれる女性ホルモンです。

思春期には、女性ホルモンの分泌によって乳房が発達し始めます。心とからだが不安定になりがちな時期ですが、成長期が終わる18歳ごろまで、乳房は変化しながら発達を続けますので、できるだけホルモンバランスをくずさないように過ごすことが大切です。

月経の周期による乳房の変化にも、女性ホルモンが影響を与えます。排卵後、胸が張って大きくなったように見えるのも、月経後に元に戻るのも、女性ホルモンの働きによるものです。

また、更年期から閉経後は女性ホルモンが減少するので、乳腺が萎縮して脂肪に置き替わることで乳房は徐々にやわらかく変化し、下垂していくというわけです。

大切なのは女性ホルモンの働きを“知る”こと

さらに、女性ホルモンは、乳がんの発生や増大にも関わってきます。

女性ホルモン自体は、発がん性物質ではありません。しかし、女性ホルモンには乳腺の細胞を増殖させる働きがあり、これが、乳腺の細胞が発がん性物質にさらされた際に、がん細胞も一緒に増殖させてしまうことにつながるのです。

乳がんの危険因子の中に、初潮年齢が低い、閉経年齢が高いといった、女性ホルモンに関わりが深い項目があるのは、そのためです。閉経後、通常女性ホルモンは低下するのですが、男性ホルモンを女性ホルモンに変化させる酵素が皮下脂肪に存在するため、肥満は閉経後も女性ホルモンを高く持続させることになり、乳がんの危険因子となります。

気をつけていただきたいのは、女性ホルモン治療を受けるとき。不妊治療や、生理不順、皮膚科でのニキビ治療など、乳がんがあることを知らずに女性ホルモン剤を使ってしまうと、がんを育ててしまう可能性があります。残念ながら、ホルモン治療に際して、こうした乳がんリスクについては医師から必ずしもお話がない場合もあります。「知らなかった」ということにならないよう、自身のホルモンを変化させる場合には、事前に乳がん検診を受けておきましょう。

一方で、女性ホルモンには、PMS(月経前症候群)や更年期障害などのさまざまな症状を軽減する効果や、骨粗鬆症を予防する働きもあります。多すぎたり、少なすぎたりするのがよくないのです。大切なのはバランス。心とからだを健やかに保つことが、ホルモンバランスを整えることにもつながります。

----思春期の発育から、月経、妊娠、出産、授乳、そして閉経まで、乳房の変化に深く関わる女性ホルモン。その働きを正しく理解して、上手につきあっていきたいですね。次回は、意外に知らない?! 乳房の病気についてうかがいます。

取材・文/剣持亜弥
  • 島田菜穂子
  • 島田菜穂子 ピンクリボン ブレストケア クリニック表参道 院長。認定NPO法人乳房健康研究会 副理事長。放射線科診断医として勤務後、1992年、東京逓信病院に乳腺外来を開設。1998年より日本放射線科専門医会海外留学フェローシップに選考され、米国ワシントン大学メディカルセンターブレストヘルスセンターに留学。帰国後、2000年に乳癌啓発団体「乳房健康研究会」を発足し、同副理事長に就任。ピンクリボン運動、イベント出版活動展開、調査研究を通じて乳がん検診の環境整備のためのロビーイングを開始する。2008年に「ピンクリボン ブレストケア クリニック表参道」開設。