骨盤底筋群が大事なわけ

特集/女力を支える骨盤

先生/重田美和(理学療法士)

----"骨盤"というと骨格に注目しがちですが、骨盤を覆っている筋肉"骨盤底筋群"のケアをしている人は、少ないようです。「出産予定もないし、まだ30代だから大丈夫」なんて思っていませんか? 実は、出産経験のある人だけでなく、腹筋を鍛えている人も年齢問わず、尿漏れや頻尿といったトラブルが生じやすいのだとか。骨盤底筋群のケアがなぜ重要なのか、女性外来で骨盤底筋群のトレーニングを指導している重田美和先生に伺いました。 骨盤底筋群

腹圧をかける動作も骨盤底筋群を緩ませる

骨盤底筋群は、その名のとおり骨盤の底にある筋肉のこと。恥骨、坐骨、尾骨についている筋肉で、膀胱や子宮、直腸を支えています。もうひとつの役割は、排泄のコントロール。骨盤底筋群は便意や尿意があると緩み、排泄します。ところが、過剰な負荷がかかり締める力が低下すると、尿漏れや頻尿などのトラブルが生じるわけです。最も多いのは、出産によって臓器を支えている骨盤底筋群や靭帯、筋膜が伸びたり、断裂するパターンと加齢による筋肉の衰えです。骨盤底筋群は手足同様、鍛えれば筋力はアップし、何もしなければ衰える骨格筋ですが、鍛えるどころか普段まったく意識しない人がほとんどですよね。だから、手足の筋肉より衰えるのが早いのです。緩めることができず、性交ができないという人がいるように、緩める力も重要。肩こりと一緒で、筋肉が緊張していると血流が悪くなり、痛みを起こす発痛物質が滞るため、痛みが出てくる場合もあります。

加齢による筋肉の衰えのピークは、エストロゲンの分泌が減る閉経後と聞くと、「今すぐケアしなくても大丈夫じゃない?」と思う方もいるかもしれませんが、骨盤底筋群を意識せずに腹筋を鍛えている人、便秘がちでトイレでいきむ人、アレルギーやぜんそく持ちで連続的に咳やくしゃみをする人は、年齢に関係なく骨盤底筋群に負担がかかっている可能性があります。骨盤臓器脱といって、膣から臓器が出てくる膀胱瘤や子宮脱、直腸瘤の患者さんも最近多いですね。骨盤臓器脱がひどくなると尿道を圧迫して、逆に尿が出にくくなることもあります。人によって症状が違うのですが、いずれにしても、女性は過剰に腹圧をかける動作は厳禁。蓋のあいたチューブタイプのマヨネーズに圧をかけると、中身が出てきますよね。それと同じこと。腹筋を鍛えるなら、骨盤底筋群という蓋をつくらないと中身(臓器)が出てきてしまうのです。

骨盤底筋群が緩む原因に心当たりがなくても、今から予防を!

土台である骨盤底筋群が弱いと、膀胱が安定しないため頻尿になる人もいますが、原因は骨盤底筋群の緩みだけではありません。緊張すると何度もトイレに行きたくなるように、膀胱は自律神経が支配しているため、心因性の場合もあるのです。尿意を感じるとすぐトイレに行ってしまい2時間ももたない人は、膀胱が小さくなり、尿を溜められなくなるので、トイレに行く回数を意図的に減らして膀胱に尿を溜めるトレーニングを指導します(トイレの回数は24時間で4〜7回が正常)。骨盤底筋群の緩みよる頻尿なのか、水分のとり過ぎやカフェイン含有飲料の飲み過ぎなのか、心因性のものなのか、医師に判断してもらうのが適切です。

軽い尿漏れや頻尿なら薬を使わず、トレーニングだけで80%改善するというエビデンス(医学的根拠)が出ています。40歳以上の日本女性の失禁率は40%以上という報告もあります。今、症状がないとスルーしがちですが、腹圧がかかると容易に漏れてしまうことを肝に銘じ、出産の予定がなくても、便秘でなくても、早い段階からトレーニングを習慣化して予防することが大事。ただ、妊娠中は安定期に入ってから、そして臨月は刺激になってしまうので避けてください。

----体重が5〜10kg増えることも、骨盤底筋群が圧迫されて尿漏れする一因なんだとか。出産した人、年配の人だけに起こる症状ではなく、自分にも起こりうることだと認識しなければなりませんね。次回は、コツさえつかめばいつでもどこでも、話しながらでもできる骨盤底筋群のトレーニングをご紹介します。
重田美和

重田美和 女性医療クリニック・LUNAグループ LUNA骨盤底トータルサポートクリニック リハビリテーション部部長。理学療法士、排尿機能検査士、排泄機能指導士。問診と触診で各自の症状(尿失禁、骨盤臓器脱)に合ったトレーニングを作成し、丁寧に指導してくれる。

取材・文/山崎潤子(ライター)
イラスト/はまだなぎさ