服の素材から制汗剤まで、汗の季節を快適に過ごす知恵

特集/2022年夏、汗対策の最新事情

先生/藤本智子(池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長)

---- 私たちの体温を平常に保ってくれる大切な汗。しかし同時に、出てほしくないときの汗に困っている人も増えているようです。汗による具体的なトラブルと、生活の中で気をつけたいことなど、汗に悩む患者さんと日々向き合っている池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長・藤本智子先生に、アドバイスをいただきます。

服の素材から制汗剤まで、汗の季節を快適に過ごす知恵

汗をかく人、かかない人の差はどこから?

20〜40代の仕事をもつ女性にとって、職場や通勤電車の中など公の場所での汗は気になるもの。でも、同じ場所にいても、よく汗をかく人と、あまり汗をかかない人がいますよね。いわゆる「汗っかき」の人と、そうでない人がいる。それには、いくつかの要因があります。

ひとつは、汗を分泌する汗腺の「能力」です。汗腺がない病気の方を除けば、人には全身に汗腺があり、その「数」と「大きさ」は皆さんほとんど差がありません。しかし「能力」は、非常に個人差があります。生まれつき汗をちゃんとかける人から、汗腺がうまく働かない人もいるということです。

「環境」、つまり育った場所もひとつの要因になります。熱帯で育つ人は、年中汗をかいているわけにはいきませんよね。一方、四季がある日本では、年間を通しての平均気温の差が大きく、梅雨時期には湿気もあるので、体温調整のために汗腺が発達する必要があります。汗の出方は、生活する環境(気温や湿度)にも大きな影響を受けます。実際、日本では多汗症だった人が、イギリスに移住したらあまり汗をかかなくなった、という事例もありました。

さらに、前回もお話しした「汗を嫌がる」という社会的なムードは、精神的な刺激による発汗に影響します。人口が少ない地域よりは、人と人との距離が近い都市部のほうが、汗の悩みを抱える人は多いのですが、これは、都市部に暮らす人に汗っかきが多い、ということではなく、対人の場でのプレッシャーの問題でしょう。人前に出る職業や、制服を着る職業の人など、仕事によって、汗を「気にしすぎてかえって汗をかいてしまう」、というケースがよく見られます。

汗は、においの問題ももたらします。汗の99%は水分なので無臭なのですが、そこに雑菌や汚れが加わると、においが発生します。このことも、汗の悩みをより深くしています。

汗の悩みを減らすためにできること

汗を自分でコントロールすることはできません。しかし、汗の悩みを減らすために、できることはあります。

まずは、洋服や下着・肌着の素材。汗を吸い取り、素早く乾かす、吸湿速乾性の高い素材を選ぶこと。汗をかいたままにしておくと、においの元にもなりますので、肌着を適切に着ることは大切です。素材も年々、驚くほど進化しています。加えて、汗ジミになりくい素材、汗ジミが目立たない色やデザインの服を選ぶことで、汗によるプレッシャーも少しは解消されるはずです。

制汗剤やデオドラント剤でもかなり対応できます。制汗剤では、最近はクリームタイプ、直塗りタイプのものが人気のようです。市販のものでもよく工夫されているので、口コミなどを見て、お気に入りのものを見つけられるといいですね。制汗剤については、汗を抑える成分がどのくらいの濃度で入っているのか、表示の義務がないので、はっきりしたことは言えないのですが、「制汗剤を使っている」という安心感は、精神的な発汗を減らしてくれます。「これは汗を抑える薬ですよ」と普通の水を渡したら、50%程度の人に制汗効果があった、という論文もたくさんあり、プラセボ(疑似薬)効果も証明されています。「また汗が大量に出るかもしれない」という不安を和らげることにもつながります。

一方、汗を適正にかけるように、汗腺のトレーニングをすることも大切です。足の筋肉が衰えると歩けなくなるのと同じで、汗腺も、使っていないと萎縮します。高齢者が熱中症になりやすいのもそのためです。汗をかきたくないから運動しない、というのは、からだのためにはよくありません。サウナも発汗トレーニングにはいいと思います。ただし、汗をかきにくい状態の人は、徐々にからだを慣らしながら行うのがよいでしょう。

そして、質の良い睡眠をとる、ストレスをためない、という基本的な健康習慣もやっぱり大切です。汗をかいたままにしない、肌に直接触れる肌着や下着を清潔に保つことも、皮膚のトラブルを防ぎます。

いろいろとお話ししてきましたが、現代社会は、汗やにおいを、必要以上に悪者としてとらえているように、個人的には思います。「多汗症」も、気になる人は治療をすればいいし、「私は全然気にしない」という人がいてもいい。汗に限らず、人からの視線で生きづらさを感じることのない、寛容な社会を目指すことも、大切なことだと思っています。

----ITの進歩に加えて、コロナ禍でのリモートワークなど、働き方が激変していく現代において、汗に対する考え方にも大きな変化が訪れているのかもしれません。適切な対策で、快適に夏を過ごしたいものですね。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 藤本智子
  • 藤本智子 池袋西口ふくろう皮膚科クリニック院長。浜松医科大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学皮膚科入局。関連病院を経て、2005年より東京医科歯科大学皮膚科助教、2011年より多摩南部地域病院皮膚科医長、2014年から都立大塚病院皮膚科医長として勤務。2017年に池袋西口ふくろう皮膚科クリニックを開院。赤ちゃんから高齢者まで、あらゆる皮膚のトラブルに対応している。皮膚病になる前の未病・予防にも力を入れる。