汗の『冷却機能』で夏を乗り切る!

特集/いい汗悪い汗

先生/田村照子(文化学園大学名誉教授、
同大学院特任教授)

汗の

ここちよさを感じる、ストレスフリーな気温域

----じんわり、ダラダラ、びっしょり...汗の出方は、気温や湿度によって変わります。今回は、体温調節に欠かせない汗の驚くべき冷却機能について、文化学園大学名誉教授の田村照子先生にお伺いしました。

私たちのからだは、体温を一定に保つために外の気温に応じてさまざまな働きをしています。裸の状態で、寒くもなく、暑くもない、からだが快適に感じる気温を"中立気温"と言います。

中立気温には幅があって、28.5度〜29度を中心に、上が31度、下は27度くらい。中立気温時の皮膚は、血管を微妙に閉じたり開いたりさせながら、それを繰り返して体温調節を行っています。血管の開閉だけで体温を調節する"血管調整域"にいるとき、私たちのからだには、外気によるストレスがかかっていません。とてもここちいい状態です。

ところが、暑くなり、中立気温を上回ると、血管を開いただけでは体温の調整ができなくなります。このままでは体温が上がり危険...となる前に、からだに備わった冷却システム="汗"が作動します。汗は、蒸発するときに熱を奪って気化しますので、その分温度を下げることができるのです。

1gの水が蒸発するときに必要な熱エネルギーは、0.58kcal(0.67W)、水の温度を1度上げるのに必要なカロリーは1calですから、体重が58kgの女性を仮定すると、100gの汗をかくと、およそ1度体温を下げられるという計算です。

どうですか、汗の冷却能力の高さ。ただし、ここで大事なのは、汗は"蒸発"するときに、熱を奪うということ。ポイントは"蒸発"です。ただ出ればいいのではなく、"蒸発"してこそ、冷却能力が発揮されるわけですね。

ハイキングにおしぼりを持って行ったとしましょう。濡れたおしぼりをケースに入れたまま置いていても、ぬるいままですが、ケースから出して少し広げると、ぐんぐん冷えていきます。外気に触れたときに、おしぼりの水分が蒸発して熱を奪っているから、です。

汗もしかり。仮に皮膚をラップでくるんで汗が蒸発しないようにしてしまったら...大変です! きっと、気温30度くらいでも蒸し風呂のような暑さを感じることでしょう。

汗は蒸発してナンボのもの!

蒸発に視点をもっていくと、もうひとつ"湿度"というキーワードも出てきます。気温が高くても、湿度が低くカラッとした空気のなかでは、それほど不快に感じることなく過ごせます。対して、ジメジメと湿度の高いときには、じっとりとした汗をかき、不快に感じる。誰もが覚えがありますよね。

実験を行ったところ、気温が高い時、温度の上昇よりも、湿度の上昇のほうが、快、不快の値に影響を与えることがわかりました。汗は、皮膚表面の水蒸気の圧力と、外気の水蒸気の圧力の差に比例して、蒸発します。皮膚表面の湿度はもともと高いので、外気の湿度が高くなるとその差が少なくなり、汗は蒸発しづらいのです。

お風呂を想像するとわかりやすいかもしれません。水蒸気をたっぷり含んだお風呂という空間のなかでは、汗をかいてもなかなか蒸発せず、ダラダラ汗が出続けます。そして、汗は蒸発しないことには、体温は下がりませんから、「あつ〜、のぼせる〜」となるのです。

これに対して、カラッとした日は湿度も低いので、皮膚表面と外気の湿度の差は大きくなります。汗をかいたそばから蒸発してくれると、からだはストレスを感じづらく、「今日は暑いけど、不快ではないね」と、なるわけですね。

このように、からだは外気の条件に合わせて血管や汗などで自動的に体温調整を行っています。気持ち悪い、お化粧が崩れる、汗ジミができる...ととかく嫌われてしまう汗ですが、からだにとっては、とても重要で、大きな働きをしてくれているのです。

----血管の開閉で体温を調節したり、暑くなれば汗の冷却機能を作動させたり、外気に応じて、からだは緻密な働きをしていたのですね。その汗にとって、キーワードである"蒸発"について、次回はさらに詳しく教えてもらいます。
田村照子

田村照子 文化学園大学名誉教授、同大学院特任教授医学博士(東京医科歯科大学)。お茶の水女子大学大学院家政学研究科修士課程修了。順天堂大学助手、文化学園大学教授、同大学院 生活環境学研究科長を経て、現職。衣服の機能性に関する分野を人々の生活に役立つ学問領域にしたいと、医学の知識を生かしながら「温熱」「形態と運動機能」「皮膚の生理」を中心に研究。日本を代表する被服衛生学研究の第一人者に。著書に『衣環境の科学』、『衣服と気候』(気象ブックス)など多数。

取材・文/大庭典子(ライター)
イラスト/190