汗のニオイ対策最終章!

特集/いい汗悪い汗

先生/上田由紀子(ニュー上田クリニック 院長)

汗のニオイ対策最終章!

2種類の汗、その出方はどう違うの?!

汗には2種類あることや、本来は汗は無臭だということ...etc.毎日無意識にかいている汗にまつわる話は、知らないことばかり。今回は、ニオイの最終的な対策である手術について、また、汗に関するトラブルには、ニオイのほかにどのようなものがあるのか、引き続きニュー上田クリニックの院長、上田由紀子先生にご登場いただきます。

「汗には、エクリン腺から出る汗とアポクリン腺から出る汗の2種類があるとお話しました。この2種類の汗は、出方にも違いがあります。下の図を見てください。全身に分布しているエクリン汗腺は、皮膚の浅いところから、汗管とよばれる管を通って表皮につながっています。一方、腋の下や外陰部など特定部位にあるアポクリン汗腺は、表皮に直接開口しているのではなく、毛幹とつながっていて、成分が球状の細胞となって分泌されます。 エクリン汗腺とアポクリン汗腺 アポクリン汗腺から分泌される汗と皮膚の常在菌がまざって発生する独特のニオイ。制汗剤や制汗クリームなどでも防げなかったときには、"脱毛"で効果が出る場合があります。アポクリン汗腺は毛包とつながっているので、ニオイの発生する場所の毛がなくなれば、汗や皮脂の分泌が減り、腋臭症が軽減されることもあるのです。

それでも、どうしてもニオイが気になる、解消したいという場合には最終手段として手術があります。ワキガの手術として、標準的に行われているのは、イナバ式皮下組織削除法です。皮膚に小さな切れ目を入れて、超音波をあてアポクリン汗腺がある皮下脂肪ごと削り取る方法で、ワキガの手術として広く普及しています。

イナバ式、と聞いて日本人が開発を? と不思議に思われた方もいるかもしれません。実はそうなんです、ワキガの手術は日本特有の治療。欧米やアジア圏など全世界を見ても、ワキガの手術がこんなにも普及しているのは日本だけ。海外の方は、体臭対策に強いデオドラント剤や香水を使うことはありますが、手術までするのは珍しいと言えるでしょう。

あせもは夏に限らず、年中発生?!

さて、汗のトラブルとしてはニオイのほかに、汗をかきすぎることで悩んでいる方もいます。発汗の際に汗管がつまって、汗の流出が妨げられてできる汗疹、いわゆる"あせも"です。その種類は、透明で小さな水泡状のもの、炎症を起こして赤みのある湿疹化したもの、蒼白色の扁平なもの、と汗が詰まる箇所によって症状もさまざまですが、なかでも、炎症を起こした赤みのあるあせもはかゆみを伴うことも。対策としては、スキンケアが中心となります。

予防としては、汗を長時間かきっぱなしにしないことが大事。夏だけでなく、冬でもあせもができて皮膚科に来る方もいるんですよ。インナーの機能性が上がって、寒い季節も温かく過ごせるのはうれしいことですが、電車で暑くても脱げない、蒸れたまま放っておく、などの状態が長時間続くと"冬のあせも"となってしまいます。

また、汗は99%は水分ですが、そのほか1%に含まれている成分に"サイトカイン"など、かゆみを引き起こす物質もあるので、汗をかいたまま放っておけば、アレルギーを起こして皮膚がかゆくなってしまうこともあります。

からだだけでなく、肌着やシーツ、枕カバーなど汗に触れる衣服やベッドリネンも頻繁に変えて、清潔にしましょう。汗をたくさんかく子どものために、寝るときはタオルを敷いてあげるという方も、そのタオルをマメに変えないとあまり意味がありませんからね(笑)」

ワキガの手術が、日本独自に開発され、発展してきたものだったとは、知りませんでした。私たちはニオイに敏感な民族ということなのかもしれません。これから始まる夏本番、ベッドリネンなどもマメに変えて、トラブル知らずの肌で過ごしたいものですね。「夏でも冬でもパジャマは毎日洗濯するわよ」と上田先生。顧みて......反省です。
上田由紀子

上田由紀子 ニュー上田クリニック院長、医学博士。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。日本体育協会公認スポーツドクター。
東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部皮膚科教室にて診療、研究、教育に携わった後、千葉県浦安市にて「ニュー上田クリニック」を開業。01年、国立スポーツ科学センターのオープンに伴い、医学研究部皮膚科を兼任。著書に『スポーツと皮膚』(文光堂)、『ようこそ、これからのSkin Careへ』。野際陽子著『70からはやけっぱち』(KADOKAWA/メディアファクトリー)には、野際氏との対談も収録されている。

取材・文/大庭典子(ライター)
イラスト/190