ホルモンにまつわるウソ・ホント

特集/神秘なるホルモン

先生/田代眞一(病態科学研究所 所長
乳房文化研究会 会長)

ホルモンにまつわるウソ・ホント 精神や肉体、美しさにも影響を与えるホルモンには、いろいろなウワサが広まっては消え、ときにはブームを巻き起こしたりと、常に女性の関心を集めています。今回は、番外編としてホルモンにまつわるウワサ話の真相を探るべく、先生にさまざまな質問をしました。引き続き、病態科学研究所 所長の田代先生にご登場いただきます。

Q. 恋をすると女性ホルモンが大量に
分泌されるって、本当ですか?

好きな人や恋人ができた女性が、「最近きれいになったね」と友達から言われたり、実際に恋をして肌ツヤがよくなったことを実感している女性もいると思います。不思議なのは、こういったことは男性にはあまり起きていない気がすること。ということはやっぱり、恋には女性ホルモンが影響しているのでしょうか。先生、これって本当ですか?

「恋をしているとき、していないとき、と分けて、実際に女性ホルモン値を計測することは難しいです。たとえ恋愛中にホルモン値が上昇していたとしても、ほかの要素が絡んでいる可能性もありますし、恋だけが理由で、ホルモンが分泌されていると結論づけるのは難しいでしょう。

ただし、いい恋愛をしているときに女性ホルモンの分泌が良好になる可能性値は大いにあると思います。なぜなら、ホルモンの役目は、あるところでつかんだ情報をほかに回すことですし、ある臓器からほかの臓器へ命令や指令を伝えることですから。たとえば、『ストレスを感じている』という情報をキャッチしたら、それに対応するホルモンを出しますし、その反対の『幸せを感じている』という情報をキャッチしたら、それに対応するホルモンが分泌されます。

ということは、問題は恋をしているか否か、よりも『幸せを感じる』恋をしているか否かということ。好きだけど辛さを感じる、というのでは、からだは『辛い』に反応してしまうと思います。女性ホルモンを良好にするのなら、ぜひ幸せを感じるいい恋をなさってください」

Q. お肉を食べると
女性ホルモンが多く分泌される?!

昔から、お肉を食べると胸が大きくなるというウワサがあったり、食文化が欧米化してから日本人女性は西洋人のようにメリハリのある体型になったと聞きます。お肉と女性ホルモン、やはり関係があるのでしょうか?

「動物性脂肪をとると、女性ホルモンの働きがよくなるというのは、本当です。だからといって、とりすぎていいことなどありません。中性脂肪の増加や高脂血症の原因となるなど、さまざまな弊害もあります。良質な動物性脂肪を、適度な量で摂取するのがよいでしょう。

動物性脂肪に関する新しいトピックスとしては、閉経後、女性は脂のあるお肉を食べたほうが、長生きをするという説があります。お肉の脂でコレステロール値が上昇してしまうと気にする人がいますが、閉経後の女性は、コレステロール値を下げないほうがいいということが、大きな学会で発表されています。

閉経後、お肉によって取り込まれるアミノ酸が作用しているのか、これに関しては、これからさらに研究が進んでいくと思います」

Q. アロマセラピーが
女性ホルモンに効果的って本当?

アロマで女性ホルモンが増えるらしい!と聞きます。もしも効くとしたら、どんなアロマがより効果的なのでしょうか。国際アロマセラピー科学研究所の所長も務めていらっしゃる田代先生、教えてください!

「一般的にアロマの世界では、クラリセージに女性ホルモン様(よう)物質作用が多いと言われていて、このアロマが、女性ホルモンの分泌を高める、という説もあるようです。が、クラリセージが入っているイコール女性ホルモンの働きが高まる、と安易に結論づけるのは難しいように思います。

以前、エッセンシャルオイル(精油)にイソフラボンのような女性ホルモン様物質が溶けているか、実験したところ、残念ながらそのような成分は見つかりませんでした。もちろん、入っていることもあるでしょう。しかし、どのオイルにも必ずしも入っている、女性ホルモンを高める効果ある、とは言い切れません。

『ラベンダーには鎮静作用』『カモミールにはリラックス作用』と、アロマの種類とその効能を丸暗記している方もいるかもしれませんが、本当にその作用があるのか、そこまでの作用を出すほどの成分が精油に含まれているのかは、精油を分析してみなければ明らかではありません。

ですからアロマに関しては、この効用があるから、この作用が欲しいから、というよりは、好きな香りでリラックスすることを目的にするのがいいでしょう。リラックスすると、ホルモンの環境がよくなる。これは間違ないことですから、そのためのアロマセラピーは有効だと思います」。

ホルモンにまつわるウワサ、興味深いお話をありがとうございました。ホルモンが適切に分泌される大切さはもちろんのこと、人間のからだが感じる「緊急」「ストレス」「リラックス」「幸福」などの情報とホルモンがいかに緻密に関わっているかを知り、からだの神秘にも驚かされました。リラックスできる時間が、ホルモンの環境を良好にし、美しさにも磨きがかかる...、そんないい循環をつくっていきたいですね。
田代眞一

田代眞一 病態科学研究所 所長/乳房文化研究会 会長。
医学博士(京都大学)、薬学修士(富山大学)。1947年京都市生まれ。富山大学薬学部薬学科卒業。元昭和薬科大学教授。血清薬理学研究会会長、日本医療福祉学会会長、和漢医薬学会監事、日本疫学学会評議員などを歴任。著書に『東洋医学に学ぶ健康づくり』(東山書房)『疾病の病態と薬物治療』(廣川書店)、『ビールを飲んで痛風を治す!』(角川グループパブリッシング)など多数。

取材・文/大庭典子(ライター)
イラスト/190