美しく座るために、大切なこととは

特集/姿勢に自信ありますか?

先生/森谷敏夫(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

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あなたの首、前に出ていませんか?!

姿勢のよさをサポートし、内臓を正しい位置に固定する働きもあるインナーマッスル。その重要性がわかったところで、私たちが気づかないうちにインナーマッスルの力を弱めてしまう"姿勢"があるのだそう。引き続き京都大学の森谷敏夫教授にお伺いしました。

よい姿勢をつくり、保持するのに欠かせないインナーマッスル。座るときの姿勢に気をつけることで、骨盤周辺のインナーマッスルを鍛えることができますよ。下の図を見てください。美しく座るためのポイントは3つ。 Image ①骨盤を立てて座る。
②頭、首、骨盤を一直線に。
③ヘソ下の高さにある前後の筋肉を骨に向けて押し当てる(青い矢印)。

頭、首、骨盤がきれいな一直線になっていれば、おのずと骨盤から背中にかけてS字曲線が生まれます。これが骨盤が立っている状態です。ところが、パソコン作業などをしていると、いつの間にか首が前に出てしまう体勢を取ってしまいます。これは悪い姿勢をつくる元なのです。

なぜならば...首が前に出た分、からだはバランス取ろうとするため、背中を後ろにズラすのです。背中が正常な位置よりも後ろにズレる、つまり猫背の状態です。背中が丸まれば、おのずと骨盤も後ろに傾いてしまいます。

こうして、骨盤が傾いている(寝ている)状態が常となってしまうのです。首って案外重いのですよ。おそらく3~4kgあるかと思います。そんな重いものが前に出たら、からだはほかの部分に負担をかけてバランスを取るしかありません。

首自体にももちろん負担がかかりますから、この体勢が続き、やがてストレートネックなどの症状となって現れる人もいるでしょう。ストレートネックは、肩こりや呼吸機能の低下を招きますし、首に湾曲がないということは、からだの衝撃が直接脳に伝わってしまうなど、負担はかなり大きいのです。

座り姿勢に限らず、立ってスマホを見ているときの姿勢にも同じことが言えます。下を向き、首がいつも前に出ているような姿勢の人は、自然と背中も丸まり、よい姿勢をキープすることが難しいはずです。

骨盤を立て、美しい座り姿を維持するためには...、インナーマッスルの出番です。座るときは、ヘソ下の高さにある前後の筋肉を骨に向けて押し当てることを意識してください。いつも力を入れるのがキツいという人は、気がついたときだけでも、ぐっと力を入れるように。座り姿勢のポイント、わかりましたか?

インナーマッスルを鍛えるエクササイズを習慣に!

この部分を鍛えるエクササイズを紹介しましょう。

①椅子に浅く腰かける。
②両手で椅子をつかむ。
③両脚を浮かせ(10秒維持)、ゆっくりと元に戻す。
3~5回、繰り返す。

背中を丸めたり、骨盤が寝ている状態は、からだはラクに感じるかもしれません。ですが、この体勢はいつしかインナーマッスルの衰えにつながり、からだに支障が出てしまいます。背中が背もたれに常に付いているような状態で座っている人は、いつか腰痛に見舞われてしまうはずです。 Image 背中が丸まった状態が続いてしまうと、胸を張ることが困難になってしまいます。ドアの枠を使って大胸筋を伸ばすストレッチもあわせて行ってください。 Image ①ドアのふちに肘を置き、胸の筋肉を伸ばしている感覚がするまで、
前にからだを押し出す。
②肘の角度が90度くらいになるまでおろし、からだを前に押し出す。
③肘をさらにおろし、からだを前に押し出す。

今日から、いやこれを読んでいる今から気をつけてくださいね。姿勢のポイントをときどき自分でチェックし、頭、首、骨盤を一直線に、と覚えましょう」

首が前に出た分を、背中を丸めてバランスを取っていたとは、目から鱗です。
ふだんの座り姿勢からインナーマッスルの衰えを招かないよう、気をつけたいですね。
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森谷敏夫
(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、PhD)。テキサス農工大学大学院助教授、カロリンスカ医学研究所客員研究員(スウェーデン政府給費留学)などを経て、2000年より現職。専門は、応用生理学とスポーツ医学。60歳を超える今も、体脂肪率は驚異の9.8%。明朗快活な人柄も人気でおもしろく、ためになる講義は大盛況。著書に『メタボにならない脳のつくり方』(扶桑社新書)、『ダイエットを科学する』(ディジタルアーカイブズ)など多数。

イラスト/楽谷玲子