疲れの原因は、ダイエットのせいではありませんか?

特集/歩くチカラを見直そう

先生/森谷敏夫(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

Image 「最近太りぎみだな、明日からダイエットしよう」と思ったらまず浮かぶのは"食事制限"。夜は炭水化物を抜いてみたり、朝食はがまんしたりと気合いを入れて挑むのですが、一瞬は痩せるのにすぐにリバウンドしたり、どうも体調がすぐれなかったりでなかなか継続できません。京都大学大学院・森谷敏夫先生に相談してみると、「食事を減らす無理なダイエットは成功しません。これは、断言できます」とのこと。

"食事制限でダイエットで成功はしない"。このショッキングなトピックスは権威ある医学雑誌『The New England Journal of Medicine』でも特集を組まれ、はっきりと結論づけられたのだそう。今回は、美しいからだになるために絶対してはいけないこと、すべきことについて、引き続き森谷先生にお伺いしました。

食事制限 vs ウォーキング
同じ100kcalでもこんなに違う!

「食事の量が減るということは、体内に入ってくるエネルギー量が減るということなので、普段通りにエネルギーを消費していたら大変。命が危険だとからだは察知します。そこで、危機を感じたからだは、省エネモードに突入。つまり、エネルギーを消費しないように生きようとします。朝から電車で爆睡している人、立っていられずすぐ座ってしまう人など、省エネモードで生きている女性をよく見かけますが、まさにあの状態。結局、入ってくる(食べる)エネルギーが減れば、消費するエネルギーも減るようにからだが反応するのです。

流行りの"炭水化物抜き"、"糖質制限ダイエット"では、一時的にからだから水が出て体重が減ることもあるかもしれませんが、実際は痩せてはいません。一方、十分な栄養を取ったうえでウォーキングで消費すれば、エネルギーがみなぎって心身快調、心臓も骨も鍛えられる、とからだへの影響は食事制限の真逆。同じマイナス100kcalを食事制限で続けるのか、ウォーキングで続けるのかでは、数か月後、まったく違うからだが出来上がりますよ」

毎日続けるウォーキングで
年に1%減っていく筋肉・骨を大切に!

「脳のエネルギー源は、100%糖質。しかも、脳だけで1日約400kcalは消費します。それなのに、炭水化物抜きダイエットなどで摂取する糖質が減ってしまうと、当然脳のエネルギー不足に陥る。脳のエネルギーが足りないと、いつも眠かったり、朝起きられなかったり、弊害はたくさんありますが、さらに進むとどうなると思いますか。

悲しいことに、からだは自らの筋肉を分解して糖質をねん出しようとします。筋肉のタンパク質1g分解につき4 kcalのエネルギーに。100g壊したら400 kcal、そうやって筋肉が壊されて、脂肪だけが残ってしまう。一見細く見えて、体脂肪が30%なんて隠れ肥満の燃費の悪いからだはこうやって出来上がります。

ただでさえ、骨も筋肉も30歳を過ぎたら年に1%ずつ減っていくので、ウォーキングなど日々の運動を続けて衰退のカーブをゆるやかにしていくことが大事です。無茶な食事制限は、体の老化を早めてしまうばかり。美しく、健康的に痩せたいのならウォーキングでからだを動かしましょう」

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森谷敏夫
(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、PhD)。テキサス農工大学大学院助教授、カロリンスカ医学研究所客員研究員(スウェーデン政府給費留学)などを経て、2000年より現職。専門は、応用生理学とスポーツ医学。60歳を超える今も、体脂肪率は驚異の9.8%。明朗快活な人柄も人気で、面白く、ためになる講義は大盛況。著書は『メタボにならない脳のつくり方』(扶桑社新書)など多数。

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