
持ち帰りたいのは何?
お持ち帰りとは、「持ち帰り」をていねいに表現したコトバだ。お店で買った品物を自分で持って帰ったり、出された食べ物をその場で食べずにテイクアウトすることをいう。「持つ」と「帰る」、2つの身体的な動きを含み、似た構造のコトバとしては「お持ち歩き」「お持ち運び」「お持ち込み」「お持ち寄り」などがある。「持ち逃げ」もよく知られているが、推奨できない行為なので「お持ち逃げ」とは言わないほうがいいだろう。
気に入った品物や食べ物を持ち帰るのは、日常の楽しみだけれど、私たちは「やり残した仕事」や「解決できなかった課題」を持ち帰らなければならないこともある。だが、むしろ、面倒な仕事や宿題にこそ「お持ち帰り」という言葉を使ってみてはどうか。重荷だったものが何となく「おみやげ」っぽく感じられ、楽しい気分になってくるはずだ。
また、お持ち帰りはモノやコトだけでなく、ヒトにも使われるようになってきた。気に入った相手を自宅などに連れて行くことを「お持ち帰り」というし、レストランで出された料理があまりにもおいしいと「シェフをお持ち帰りしたい」なんて言い出す人もいる。出張料理サービスのあるお店ならその夢は叶うが、そうでないお店では、幸せな思い出や料理のヒントを持ち帰るくらいにしておきたい。
テイクアウトは一大事だ
最近は、料理をお持ち帰りできる飲食店が飛躍的に増えた。ファストフードだけでなく、レストランや居酒屋なども続々とテイクアウトを始めており、個人的にもよく利用している。デリバリーしてもらうのも便利でいいのだけれど、お店を見るのが好きなので、時間に余裕のあるときは、なるべくお持ち帰りをするようにしている。
だが、食べ物を持ち運ぶのは、とてもスリリングだ。鮨にしてもピザにしてもハンバーガーにしてもケーキにしても、非常に気をつかう。温かいものがさめないように、冷たいものがぬるくならないように、つぶれないように、かたよらないように、汁がこぼれないように。無事に家まで持ち帰っても、玄関のドアを勢いよく開けた瞬間、台無しにしてしまうことも少なくない。逆に、自分は派手に転んでも、食べ物だけは水平に保っていたという武勇伝も、なくはないのだが。
先日、一度行ってみたかったレストランがテイクアウトサービスを始めたと聞き、さっそくディナーセットを予約し、いそいそと取りに行った。結果、シックなお店の雰囲気とサービスの片鱗を味わうことができ、大満足であった。しかし、料理は思いのほかカサがあり、おしゃれなヒール靴を履いて行ったことを、帰り道ではやや後悔。盛りつけのテクニック的にも大きな課題が残ったが、超おいしかったので、まあいいか。
お持ち帰りの楽しみ
改めて思うのだが、お店でショッピングをすれば、配送を希望しない限り、購入した品物は自分で持ち帰ることになる。もともとお持ち帰りは、お買い物の基本なのである。誰かに贈るためのお花やお菓子も、自分へのご褒美として購入したランジェリーも、持ち歩くのは楽しいし、お気に入りのブランドロゴ入りのショッパーを持ち歩くのは、それだけでわくわくする。
ショップスタッフが見送ってくれるようなお店では、商品を手渡されるときに「気をつけてお帰りくださいね」と言われることがある。このひとことで、気をつけようと気合いが入るものだが、お店の人は、お客さまを気づかうと同時に、お持ち帰りされる大事な商品のことも心配しているのではないかと思う。
商品に万が一のことがないように、大切に持ち帰ってくださいねと言っているのだ。
そう言われると、いいものを買ったんだなとうれしくなるし、そういう店員さんっていいなと思う。愛情
をこめて商品を整え、きれいに包んで、手渡してくれる人。「気をつけてお帰りくださいね」と言われ
ると、私は、寄り道なんか絶対にしない優等生になる。何があってもぶつけないように、細心の注意を
払いながら、まっすぐそれを持ち帰る。
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相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
疲れたときは、味覚的にも語感的にもベトナム料理に癒される。
フォー、ブン、ミー、チャオ、ソイ、ラウ……とくにデザートのチェーは最強!