ブラレットの時代がやってきた
ブラレット(Bralette / Bralet)はブラジャーの一種。いつのまにか、さりげなく日本に入ってきて、気がついたら定着していた、そんな印象の外来語だ。カテゴリーとしては、自然なバストラインをつくるノンワイヤータイプの軽やかなブラのことである。しかし、こんなかわいらしい語感のコトバ、いつ広まったのだろう?
調べてみると、欧米でブラレットの人気が出始めたのは2010年代初めのようだ。日本には前身として「三角ブラ」があったけれど、ブラレットというコトバが広まったのは、多くのファッション誌が紹介した2017年ごろ。そして2020年、在宅ワークが増えたことで、ますます注目を集めるようになったというわけだ。フランスのブラ事情について書かれた記事にも「近年ではブラも快適さが優先され、『ブラレット』と呼ばれる肌ざわりのよいノンワイヤータイプが人気」(朝日新聞2020/8/20)とある。
ところで、ブラレットって何かに似ているなと思ったら、タブレットだった。そう、タブレット型コンピュータ(=タッチパネルで操作する薄い板状の情報端末)の存在がポピュラーになったのも、2010年ごろからなのだ。軽くて在宅ワークにぴったりのブラレットの流行は、軽くて在宅ワークにぴったりのタブレットの流行と、シンクロしているのではないかと思う。
かわいらしいレットの世界
今回、深掘りしたいのは、ブラレットというコトバのかわいらしさについて。そのひみつは「ブラ」にプラスされた「レット(エット)」という接尾辞にある。英語ならet、フランス語ならette、イタリア語ならettoと表記され、「小さい」という意味や「〜のような」という意味を表す。愛情や愛着、親しみやすさのニュアンスが込められる場合も多いようだ。
わかりやすい例をあげるなら、「タルト(普通のタルト)」と「タルトレット(小型のタルト)」、「ブック(冊子)」と「ブックレット(小冊子)」、「アレグロ(速く)」と「アレグレット(やや速く)」など。ちなみに「タブレット」の語源は「テーブル」だそう。古来から、文字を残すのに使われた粘土板や石板をタブレットと呼んでいたらしく、意外と古風なコトバなのである。
日本語でも「レット(エット)」のような、語尾につけるとかわいらしくなるコトバはないのだろうか。「でれっと」「しれっと」というコトバが即座に思い浮かんだが、まったくかわいくない。ただし、「小粒」のように最初に「小(こ)」をつける単語なら、たくさんあることに思い至った。これらは「レット(エット)」に近いニュアンスをもっているのではないだろうか。粒と小粒、枝と小枝、雪と小雪、骨と小骨、銭と小銭、話と小話、悪魔と小悪魔、料理屋と小料理屋など、比べてみると、その小ささや軽さ、かわいらしさがよくわかる。
小胸さんってどんな人?
カラダに関するコトバにも、「小鼻をふくらます」「小耳にはさむ」「小首をかしげる」「小脇にかかえる」「小腹がすく」「小股が切れ上がる」などの慣用句がある。「首をかしげる」よりも「小首をかしげる」のほうが動作としてかわいいし、「腹がすいた」よりも「小腹がすいた」のほうが、生理現象としても圧倒的にかわいいことはいうまでもない。
そういえば最近、胸が小さめの人のことを「小胸さん」と呼んでいるケースをときどき見かけるが、この表現はよく考えられているなと思う。「小」でかわいらしく、「さん」という尊敬や親愛を表す接尾語までつけている。小さい胸に憧れる人が現れてもおかしくないだろう。
しかし、小をつけることで、皮肉っぽいニュアンスが生まれるコトバもある。「小役人」「小金持ち」には、何となく小馬鹿にした感じが漂う。あ、小馬鹿というコトバ自体が皮肉っぽいな。馬鹿にされるのと小馬鹿にされるのと、どっちがイヤだろうと考えてみるが答えは出ない。あるいは「小綺麗」はほどよくキレイという意味だが、「小汚い」はどことなく薄汚いという意味で、人間としては、かなり汚いような気もしてくる。キタナイとコギタナイ、どちらがよりキタナイのかと考えていたら、あっという間に、小一時間がたってしまった。
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相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
疲れたときは、味覚的にも語感的にもベトナム料理に癒される。
フォー、ブン、ミー、チャオ、ソイ、ラウ……とくにデザートのチェーは最強!