今月のコトバ「ブラとパンツ」
文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
ブラとパンツはセットで買う?
ブラとパンツ(=ショーツ)。形も用途もまったく異なるのに、まるで左右の靴下みたいに切り離すことができない運命のペア、といったら言い過ぎだろうか。ブラとパンツは、スーツのように「上下」と呼ばれることが多い。これは「上半身用の衣服と下半身用の衣服」という意味である。
『
ブラパン100』(ワコール)という、ブラとパンツにまつわる100のホンネをまとめた本の中に「ブラとパンツはセットで買う?」という質問があった。結果は「はい」が52%、「いいえ」が48%で、「はい」の人の理由は明確だ。「おしゃれ」「かわいい」「自信が持てる」「男性受けがいい」「かっこよさが全然違う」などなど。
では、上下バラバラだとおしゃれじゃないのか?「いいえ」の人の本音は面白い。中には「あえて違うものでかわいい組み合わせを楽しみます♪」という上級おしゃれ組もいれば、「ブラジャーは見た目勝負、パンツは機能性第一で選択するのでセット買いはない」とキッパリ言い切る人も。セットでもバラバラでも、そこに自分らしさがあればいいのだと開眼させられた。
上下バラバラには理由がある
ブラとパンツをセットで買っても、必ずセットで身につけるとは限らないだろう。たとえば上下セット派の人が、なぜか「白いブラ+黒いパンツ」をつけていた場合、以下のような事情があったのかもしれない。
彼女はその日、黒いブラとパンツをセットでつけたが、その上にシャツを着てスカートをはき、ストッキングもはいて鏡に映したら、シャツから黒いブラが透けて見えたので急いでシャツを脱ぎ、黒いブラが透けないニットに着替えたが、スカートと合わなかったのでニットを脱ぎ、黒いブラを白いブラにつけ替え、さっきのシャツを着て、透けないことを確認した。さあ、次はパンツだ。セットの白いパンツにはき替えるには、スカートをまくり上げてストッキングを脱ぎ、黒いパンツを脱ぎ、白いパンツをはき、ストッキングをもう一度はき直さなければいけない。あわててストッキングを伝線させるリスクを考えると、既に残された時間的猶予はない......っていうかメンドウだ!
女性ならわかると思う。ブラ×パンツ×トップス×ボトムスの完璧なコーディネイトは難しく、美しい着用には時間がかかることを。だが、それこそが楽しみというもの。懲りずに毎日、限られた時間の中で試行錯誤を繰り返すことで、私たちのおしゃれ細胞は活性化するのではないだろうか。外出中にふと、家に残してきた白いパンツに思いをはせるのも、いとおかし。
脱ぎ捨てられたアイテムの美しさ
女優さんのつけているブラとパンツがバラバラだと、強いインパクトがある。今もよく覚えているのが、2003年の映画『偶然にも最悪な少年』。矢沢心の上下バラバラぶりがチャーミングだった。「ブラとパンツをセットでつけるか問題」が、身近で話題になり始めたのは、ちょうどこの頃だったような気がする。
つい最近は、デジタルリマスター版で公開された1970年の映画『早春(Deep End)』に学んだ。鮮やかな色彩感覚に加え、24歳のジェーン・アッシャーの魅力が炸裂している青春映画で、ブラとパンツの見せ方もおしゃれだった。ちなみに彼女は、21歳のときポール・マッカートニーの最初の婚約者だった人(翌年、婚約破棄)。71歳の現在は実業家だという。
彼女が服を脱ぐシーンのファッションは、黄色いエナメルコート+黒地にオレンジ系の花柄ミニワンピ+白いブーツ+白いバッグ。さあ、下着は何色でしょう? 答えは、赤いブラと黒いパンツ。パンツは当時流行したハイウエストタイプだ。これらのアイテムを順に脱ぎ捨てながら、水を抜いたプールの中(わけわかんないですね)を歩く彼女のかっこよさといったら! というわけで今、「上下バラバラ」を積極的に楽しみたい気分が、個人的には高まっています。
相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画愛好家。
好きなネット用語は「パンくずリスト」。自分が今どこにいるのかを示す階層表示のことだが、ヘンゼルとグレーテルが森で迷子にならないよう通り道にパンくずを置いていったエピソードに由来すると知り、キュンとした。