今月のコトバ「ボディライン」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「ボディライン」

人体は美しい曲線でできている

ボディライン(body line)とは「からだの輪郭を示す線」のこと。女性のカラダにおける主要なボディラインといえば、バストライン、ウエストライン、ヒップライン、レッグラインといったところだろうか。いやいやフェイスラインやネックライン、デコルテライン、二の腕ラインも大切だ。輪郭とは少し違ってくるが、背中の脊柱ラインや腹筋の縦ラインだって外せない。

個人的に憧れるのは、横から見たボディラインが美しい人。鼻筋の通った横顔のライン、立体的な後頭部のライン、そして何より背中からヒップにかけての曲線。谷崎潤一郎も『痴人の愛』(1925)で「その短い胴体はSの字のように非常に深くくびれていて、くびれた最底部のところに、もう十分に女らしい円みを帯びた臀の隆起がありました」とナオミという女性の身体を描写している。

もともとラインや線には「輪郭」という意味があるが、人の印象を語るとき「あの人は線が細い」「あいつは線が太い」と使われることもある。線が細いといえば、弱々しく頼りないことだし、線が太いといえば、しっかりしていて心強いこと。どうしても体型のニュアンスが含まれてしまうから、下手に使うと誤解を招きそうで難しい。英訳すれば、線が細いは「センシティブ(sensitive)」で、線が太いは「タフ(tough)」。英語のほうが明らかにカンタンだ。

うれしい線、うれしくない線

年をとると輪郭がぼやけてくるといわれる。丸みをおびて女性らしくなるのは歓迎だが、たるみはなるべく避けたいもの。膝肉の上にできる線など、贅肉によってできる新たなラインも悩みの種だ。前屈みの姿勢を続けることでできてしまうおなかの横線(猫背線といわれている!)にも注意したい。

顔にできるラインも、シワやたるみとして嫌われることが多い。その筆頭は、鼻の両脇から伸びる「ほうれい線」だろう。中国の人相学では鼻の両脇部分を「法令」といい、事業や商売、支配力に関わる部分だそう。「ほうれい線がくっきりしているほど人生はうまくいきますよ」と言われたら、イメージも変わるのではないだろうか。ほうれい線は、福耳みたいなものかもしれない。

左右の口角から下に伸びる「マリオネットライン」という線もある。腹話術に使うマリオネット(=仏語では動かして遊ぶ人形の総称)は、口がパクパク動くように口角から顎にかけて切れ込みが入っており、その口もとに似ているという意味らしい。こんなに可愛い名前なら、愛されてもよさそうなものだが。

最近注目されている「ゴルゴライン」は、目の下から頬にかけて出現する線のこと。由来はもちろん漫画で、ゴルゴ13の表情を見れば、このラインがどういうものかは一目瞭然である。ゴルゴ13のモデルは若いころの高倉健さんだというから、このラインが顔に出たら、健さんのファンは喜ぶべきだろう。

チャームラインをつくろう

実際に、ほうれい線もマリオネットラインもゴルゴラインも、明らかにチャームポイントになっている人がいる。顔のつくりや表情によっては、どんなラインも「あり」なのだ。目尻のアイラインを強めに伸ばしてキャットアイをつくるテクニックがあるが、ちょうどその位置にシワが1本、きれいにすっと入っていて、すっぴんでもキャットアイに見えてしまう羨ましい美女だっている。

前回のコラムでも引用した、永遠のおしゃれアイコン野宮真貴さんは、目尻をピンとはね上げるメイクの提唱者だ。キャットアイは本来、30°の角度が上品な仕上がりらしいが、まぶたが下がってきたら、思い切って45°に上げてみるのがおすすめという。年齢を重ねると重力の法則ですべてが下がる。しかし「下がったのなら上げれば良い」と野宮さんは力強く言い切るのである。

下がったら上げる。たるんだら締める。新しい線ができたらチャームポイントにする。もはや何もこわいものはないような気が......。というわけで、手相や人相のいい線を年々増やし、筋肉の縦線をつくっていこうではありませんか。ボディにはたくさんのラインがあるのだから、得意な線を強化していきたい。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。