今月のコトバ「体幹」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「体幹」

長友のブレない魅力

サッカー選手・長友佑都は「体幹」「走力」「メンタル」という3つのストロングポイントでできているらしい。本人が著書『長友佑都 体幹トレーニング20』の中で書いている。昨年春に出版されたこの本は、50万部を突破し、体幹ブームの火付け役となった。体幹とは、頭と手足を除く胴体部分のことだ。

この本によると、体幹トレーニングには「姿勢がよくなる」「体の芯から痩せる」「腰痛を解消できる」などの効果がある。深層部のインナーマッスルを鍛えることで、体の軸が強化されるのだ。付録のDVDを見ると、長友が見本演技と解説をしている。筋肉がプルプルしそうなメニューばかりだが、鍛え抜かれた体は安定感があり、全くブレない。もちろん長友は、自分の体幹を自慢しているわけではない。特典映像として、過去のトレーニング風景を年代順に収録し「僕も最初からできたわけじゃないよ」とやさしく語りかけるのである。

長友ファンとしては、このDVDで「モトはとれた」と満足してしまった。ストロングな体幹とチャーミングな微笑み! 彼は絶対にカッコ悪いコケ方をしないだろうし、コケた女性には離れた場所からでも走り寄り、救出してくれるはず。自分の体幹を鍛える前に、こういう男をそばに置いておきたい気がする。

アトラクションで体幹を体感

とはいえ体幹トレーニングを実践している女性は確実に増えた。たとえばアクションシーンのために体幹を強化したというスレンダーな女優M。私は彼女の出演映画を「アトラクション型4Dシアター(MX4D)」で見たが、こちらの体幹まで鍛えられそうな体験ができたのは、思いがけない成果だった。

MX4Dは、映画のシーンに合わせてシートがあらゆる方向に動き、突き上げ、振動し、浮遊感が得られたりもする。と同時に風が吹き、さまざまな香りが漂う。誰かがズブっと刺されるたびに返り血のようなミストが顔に噴射され、そのたびにギャーっと驚いた。ボコボコにされるシーンでは背中や太ももに容赦なくジャブが入る。これは体感型シアターというより、もはや軽い拷問?

いつもはダラ〜っと映画を見ている私が、拷問をもれなく味わうため、シートにしっかり背中をつけて良い姿勢をキープしていることに気がつく。刺激があるから同じ姿勢でも疲れないし、シートが動くたびにバランスを取らねばならない。まさに体幹トレーニングだ。映画が終わり、圧倒的にシャキっとしている自分がいた。まあ、ふだんの姿勢が悪すぎるのかもしれないが。

夢をかなえる体幹

私は「体幹」「走力」「メンタル」のすべてが弱い上に、厳しいトレーニングも苦手。マッサージのような受け身のサービスでちゃっかり鍛えたいのである。長友のような専属トレーナーに「僕がなんとかしてあげるから、君はがんばらなくていいよ」と言ってもらえれば最高。しかし今、インテル・ミラノで活躍中の彼はそばにいない。恥ずかしいコケ方をしても、私は自力で立ち上がらなければならないのだ。本とDVDを見ながらがんばるしかない。

長友は「夢、叶えましょう!」と読者を誘う。本の最初のページには崇高な目標が自筆で書かれ、続く空白ページは読者が自分の目標を書き込めるようになっている。長友の目標は「バロンドールを獲る!」だ。バロンドールとは年間世界一のサッカー選手に贈られる賞のこと。さあ私はどうしよう。「ベビードールを着る!」ではどうだろうか。ベビードールとはセクシーで可愛いランジェリーの一種。インナーマッスルを鍛え、着こなしてやろうじゃないか。

幼少期から今まで、彼がどう体をつくってきたかの真摯な記録を読みながら「私もがんばるよ、長友さん!」と、心の準備だけは充分な秋である。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。