2023.02.09

【特集】おとなの「はじめて」は楽しい#04

つまみ細工作家・房花さん「今日がいちばん若い日だから」。箱入りマダムがアーティストに!

江戸時代から伝わる伝統工芸「つまみ細工」をご存知でしょうか。小さな布をつまんで折り畳み、花や鳥に仕立て、櫛やかんざしに仕上げたものです。最初は風流な趣味としてたしなんでいたのが、今ではオリジナル作品をつくり、全国でワークショップまで行っているのが、つまみ細工作家の房花さん。おとなになって新しいことを始めた、ふたりめの素敵な実例をご紹介します。

40代、趣味から始めてイベントに参加する日々 私がつまみ細工を始めたのは、40歳後半のことです。娘が成人式で着物を着るにあたって、和装に合わせる髪飾りをつくりたいと始めたのがきっかけでした。それらを思い切ってブログに上げてみたら、「かわいい!」「素敵…」とみなさんやさしくほめてくださって(笑)。すっかりその気になった私は、「Minneハンドメイドマーケット」や「ハンドメイドジャパンフェス」などに出展するようになったのです。

伝統的なフラワーモチーフに加えて、房花さんらしい動物モチーフに個性が光る

最初は独学でした。図書館に足を運んで、つまみ細工の本を借りて…というキホンのキからスタート。それがいろんなイベントに参加するうち、「真似された」と思われないよう、オリジナルのデザインを目指すように。そして少しずつ私の作風「おもしろ・かわいい」ができあがっていったのです。「おもしろい」と言っても突拍子のないものをつくるのではなく、クスッと笑える要素を取り入れるのが私流。たとえば、このクジャクのピアスは「第1回つまみかんざしデザインアワード」で審査員特別賞を受賞したものがオリジナルです。作品は、名古屋にある孔雀の間に展示されると聞いたので、ならばクジャクだろうと(笑)。それがすごく好評だったので、デザインを縮小していき、ピアスという形になったのです。

クジャクモチーフのピアスは付けるだけで、顔まわりが華やかに。しかも軽い!

50代、テレビ出演を機に全国を回るように つまみ作家として転機になったのは、50代に入り、NHK『すてきにハンドメイド』に出演したことでしょうか。ハンドメイド展に出展していた私の作品が、制作会社の方の目に留まり、オファーをいただいたのです。出演以来、少しずつ知名度が上がり、全国のワークショップに呼ばれるように。集まった生徒さんに全力でつまみ細工の魅力を伝えたあとは、その土地の観光地巡りも存分に楽しみます(笑)。福岡、香川、大阪、宮城…これまでたくさんの素敵な街を訪れました。

つまみ細工らしい花に、リボンやタッセルなどをつけてモダンに。

これは自分で言っているのですが、私はずっと〝箱入りばばあ〟で、新幹線には10年以上乗っていなかったし、飛行機なんて20代の頃に乗ったきり。それが自分でホテルまで予約して全国を回るようになるなんて…。ひょんなことで始めたつまみ細工をきっかけに、ここまで人生が広がるのですから、何が起こるかわからないものだなぁと思います。

今やらずにいつやるの?もちろん今、です!さらに今、技術をより高めるため、信頼のおける先生のところへ学びに出かけています。生徒さんを教えるようになって、もっと自信をもってこの技術を伝えたい、そのために自分をクラスアップさせたいと考えるようになったのです。そんな私の夢はふたつ。ひとつは自分の本を出版すること。もうひとつは、作品を携えて海外へ出ることです。私の住む茨城は、都市の中に大きな公園があり、さらに湖もあって、どこかN.Y.のマンハッタンに似ていると聞いたことがあります。だからまず、目指すはN.Y.かな。そんなことを本気で夢見ているんです。

現在、つまみ細工は大人気。「本を読んで始めるもよし、今ならオンラインレッスンも充実していますよ」

ときおり思い出すのは、「今日がいちばん若いのよ」という黒柳徹子さんの言葉です。何事も10年やればベテランと言われますよね。今始めたら10年後にはベテランだけど、やらなければ初心者のまま。40代・50代は、自分を縛るものがなくなって、まだ少し体力があって、いちばん動ける年代なのではないかなと思います。もし「何かを始めたい」「自分を少し変えてみたい」と思う人がいたら、あの先生の受け売りですけど、やっぱりこう伝えたいですね。「今やらずにいつやるの? 今でしょ」って(笑)。

房花(ふさはな)2013年、独学でつまみ細工の制作をスタート。2016年、タレント千秋さんが主催する期間限定のハンドメイド作品コンセプトショップ「ハローサーカス」に参加。2018年、雑誌『装苑』に掲載され、「装苑アクセサリー蚤の市」にも参加。2019年、NHK Eテレ『すてきにハンドメイド』に出演、NHKテキスト『すてきにハンドメイド』に掲載された。

サイト:@fusahana

Instagram:@fusahana

構成・文/本庄真穂
撮影/市原慶子
撮影協力/笠間の家
デザイン/日比野まり子