2022.04.20

モデルKIKIさんが訪ねる研究の現場#01/未来の健康と美に必要な研究

モデルKIKIさんが訪ねる研究の現場#01/美しく健康な「人生」に必要な研究

ワコールがさまざまな大学や研究機関、企業と共同で進めている「からだ文化研究プロジェクト」。今回から、モデルKIKIさんがナビゲーターとなって、体験&レポートをするシリーズが始まります。

初回は、プロジェクトメンバーである京都大学・建内宏重先生の研究室へ。「理学療法&臨床バイオメカニクス」という分野で、からだの運動機能などを研究し、リハビリの現場にも立つ建内先生が分析する「美しい佇まい」に迫ります。

KIKI(モデル)、建内宏重先生(京都大学准教授)、坂本晶子(ワコール人間科学研究開発センター 主席研究員) 左から
KIKI(モデル)/武蔵野美術大学建築学科卒業後、モデル・女優・写真家として活躍。エッセイ寄稿や紀行文の執筆なども手がける。著書に『美しい山を旅して』(平凡社)、『山が大好きになる練習帳』(雷鳥社)など。
建内宏重先生(京都大学准教授)/理学療法士、博士(人間・環境学)。リハビリテーション領域での診療と研究を行う傍ら、理学療法その他関連専門職に対して講演やセミナー活動も行う。著書に、『姿勢と歩行』(三輪書店)、『股関節』(ヒューマンプレス)など。
坂本晶子(ワコール人間科学研究開発センター 主席研究員)/入社以来、ベビーからジュニア・マタニティ・シニア世代まであらゆる世代の人体計測を担当。その後、「スタイルサイエンスシリーズ」の開発、姿勢美研究などを経て、さまざまな商品開発に携わる。

身体機能を知ることが、未来の予防に

KIKI はじめに、建内先生が普段研究されていることを教えてください。

建内 京都大学の臨床バイオメカニクス研究室で、人のからだの構造や運動を力学的に解析する研究をしています。また、リハビリテーションに関する研究も行っていて、大学の隣にある京都大学医学部附属病院で、実際に患者さんのリハビリも行っています。

また、予防に関連した「予防理学療法」の研究も進めています。たとえば、企業や他大学と共同で、動画像の計測とともにその背後でさまざまなアルゴリズムを駆使して、簡単に、そして精度高く、人の動きや関節にかかる負荷などを計測する手法を開発しています。

こういった技術が、まだ今は症状が出ていないような人たちにも、予防として役立つのではないかと思っています。

身体機能を知ることが、未来の予防に
身体機能を知ることが、未来の予防に

KIKI 理学療法は聞いたことのある言葉ですが、予防理学療法は知りませんでした。

建内 これまではリハビリもほかの医療と一緒で、病気や障がいを抱えたあとに行うことが基本でした。ですが、リハビリを行っているともっと早くに予防できていたらと感じる機会が多くあります。特に私が主に診療を行っている大学病院は、悪くなった方が最終的にくる場所でもあるので、その時点から予防を考えるのは現実的ではありません。予防するなら、町の小さなクリニックやジムなど、まだ痛みや症状のない人たちに早い段階から介入することが大事です。

簡単に撮った写真や動画から、からだを知るツールを

KIKI 大きな病院に行くほど悪化してしまう前に何かできたら、それはとても意味がありますね。

建内 ただ小さな施設になると、今度は計測するための機械を導入することが難しいという問題もあります。そこで、どんな場所でも計測できるように、携帯で撮った画像や動画から、からだの動きを正確に評価して、関節の動きや筋肉にどのくらい力がかかっているか、からだへの負荷を計測できたら、と思っています。

この技術が実現できれば、一般の人にも「今の歩き方だと、実はひざに負担がかかっていますよ。将来はこんな症状が出る可能性があるので、この部分をもっと整えましょう」など、予防を含めたアドバイスができるようになります。

KIKI それはすごくいいですね。病院に行ってセンサーをつけて、解析してもらって、となるとハードルが高いですが、手軽にできるなら知りたいという人はたくさんいるでしょうね。年齢とともに関節の動きが鈍くなるということもありそうですし。

KIKI(モデル)

建内 日本人の特に女性に多いのですが、生まれながらに特に股関節の受け皿のつくりが浅い人がいるんですね。若いときはなんでもないのですが、年齢を重ねると痛みを発症してしまいます。私たちは、どんな原因があって進行していくのかを調べて、運動などで変えられないかを研究しています。

妊娠で姿勢がくずれてしまったら…

KIKI からだへの負荷と言うと、私は昨年8月に出産したのですが、妊娠中の負荷はすごく大きいと感じました。靭帯がゆるむので、関節への負担も大きいと聞いたことがあります。大きいおなかでバランスを取るので姿勢もくずれてしまって、果たしてそれが産後半年経った今、戻っているのか…。

坂本(ワコール) ワコールではマタニティ期のからだの研究にも取り組んでいて、同じ人の妊娠前から妊娠初期・中期・後期、そして産後1年・1年半・2年と定期的に計測し、多くの人のデータを集計しています。KIKIさんがおっしゃったように、妊娠中期以降は、おなかを支えるために上半身を後ろに反らしてバランスをとるよう、姿勢が変化する人もみられます。

坂本晶子(ワコール人間科学研究開発センター主席研究員)

出産後、体重や体型は、産後3カ月までに急激に戻り、産後6カ月くらいには落ち着いてきます。そのため、産後1カ月検診で問題がなかったら、その頃から日常生活を送り、産後3カ月になったら、1日6000歩を目安に歩くことをおすすめしています。「6000歩」は日本人の1日の平均歩数と言われています。

建内 関節への負担を考えたとき、歩き方と同じくらい、歩数も大事です。人によって歩き方は違うので、当然1歩踏むごとにかかる股関節への負担も変わります。負担がかかる歩き方を続けていると、その歩数分だけ積み重なっていくので、1、2年単位で見るととてつもなく大きな負担がかかっているんですよね。

元々、関節を少し悪くされているような方で、1日1万歩を超える日が1週間休まずに続く人は、少し負担がかかりすぎているかもしれません。それくらい歩く人は、週に1度でも脚を休ませる日もつくるといいですね。

KIKI 1日6000歩が目安なら、無理なくできそう。歩きすぎるのもあまりよくないのですね。

建内宏重先生(京都大学准教授)

モデルのポージングは「いい姿勢」?

坂本(ワコール) KIKIさんはモデルとして、普段から立ち姿のバランスや姿勢については意識していますか?

KIKI いえ、逆にモデルとして取るポーズは、洋服をきれいに見せることを優先していて、動きとしては不自然かもしれません。姿勢という観点でもあまり良いとは言えないと思います。でも、それが「きれいな姿勢」と言われることもあるので、人から見て美しい姿勢…、考えるとすごく難しいですよね。

建内 いい姿勢ってなんだと問われると、とても深い話になります。次回は、その姿勢について、そして美しい佇まいとはどんなものかについて、話しましょう。

取材・文/大庭典子
撮影/石川奈都子
デザイン/WATARIGRAPHIC

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