料理研究家・柳澤英子さん<前編>糖質と上手につきあって笑顔の日々に

特集/糖質制限、ホントのところ

語り/柳澤英子さん(料理研究家)
柳澤英子さん

52歳のときに独自の糖質制限を始め、1年間で26kgの減量に成功した料理研究家の柳澤英子さん。『やせるおかず 作りおき』をはじめとする通称『やせおか』シリーズほか、食事を楽しみながら健康的なからだに近づけていく、簡単レシピ本でも人気です。体調も機嫌もよくなる、笑顔あふれる「美の流儀」。前編では、糖質に着目するに至ったかつての食生活と、心のあり方まで変えた人生最後のダイエットについて語っていただきます。

50代、からだも心も絶不調…が糖質オフのきっかけに

私が人生最後のダイエットを決意したのは、2011年、52歳のとき。身長157cmで体重は73kg。体脂肪率は48%で、健康診断の数値も最悪。当然、体調もすごく悪くて、そのせいでいつも不機嫌でした。痩せなくちゃダメだ、と、かつてない危機感が押し寄せました。

そもそも、小さい頃から太っていた私は、ダイエットしてはリバウンド、を何度も繰り返しながら、お金も時間も使ってきました。ダイエットで体重を減らした分が倍返しになるような感じで少しずつ太ってきて、体調にまで影響してきた、という状況でした。

でも私は、食べることが大好きなんです。食への執着が強いというか。それが高じて、気がつけば料理記者、編集者から、料理研究家になっていたくらいですから。おいしいものを食べ始めるともう止まらない。いいことがあったらうれしくて食べ、嫌なことがあったら落ち込んでまた食べる。すべてを「食べること」で“消化”して生きてきた。それは太りますよね(苦笑)。

だから、「食べることを我慢する」、いわゆるカロリー制限では、自分はうまくいかないということは知っていました。過去のダイエットの経験からも、厳しいカロリー制限でいったんは体重が落ちたとしても、髪の毛が抜けたり、骨がもろくなったりすることを実体験として知っていたので、「カロリー制限はできないな」と。そこで注目したのが、当時話題になり始めていた「糖質オフ」だったんです。糖質と上手につきあうことができれば、健康に、ストレスなく痩せられるんじゃないか、と。

まずはここまで太ってしまった自分の食生活を見つめ直すことから始めました。「好きな食べ物ベスト10」を書き出してみたんです。結果は、1位「お寿司」 2位「ラーメン」 3位「カレーライス」 4位「パスタ」 5位「焼きそば」 6位「ピザ」 7位「ギョーザ」 8位「うな重」 9位「おにぎり」 10位「ホットドッグ」…。見事に、全部、糖質でした。これはもう、好き嫌い以前に、糖質をとりすぎている糖質依存だと、リストを見ながら確信しました。それで、少しずつ減らし始めたんです。

ストレスのない糖質オフで、1か月後にはマイナス10kg!

本格的な糖質制限だと、主食の炭水化物は一切食べない、となるのでしょうが、それだと私にはストレスで、結局、挫折するのが目に見えている。だから、これだけは避けよう、とか、食べても半分にしよう、と、自分なりのルールをつくって。半年に1回はご褒美で高級なお寿司屋さんに行くとか(笑)。

でも、お肉やチーズなど、カロリー制限では我慢しなければいけなかった食材も、糖質制限ではOKだったので、おなかいっぱい食べてはいたんです。だから、それまでのダイエットに比べて、ストレスはなかった。それがよかったんだと思うんです。

そんなふうに自分なりのやり方で食事を変えていったら、もともとが太りすぎていたこともありますが、スルスルーっと、あっという間に痩せました。1か月で10kgくらい。周囲からは「病気じゃない?」と心配されたほど。でも体調はむしろ改善していました。糖質を減らした分、お肉お魚、野菜はたっぷりとっていたから、結局、栄養バランスがよくなったということなのでしょう。

からだも心も軽くなってポジティブ思考に

10kg落ちたところからは、体重の減少は緩やかになって、毎月1〜2kgくらい、最終的には73kgだった体重は46kgにまで落ちました。人生で初めて、太ももの間に隙間ができて驚きましたね(笑)。ただ、そこまで落ちると当時の私には痩せすぎで、風が吹くとふらついたり、関節が冷えたりといった不調を感じたので、少し戻して、それから4〜5年はキープしていました。

痩せたことで洋服は全部買い直し。13号がキツかったのが、いちばん痩せていたときは7号に。「これも入る、あれも入る!」と、なんでも着られるのがうれしくて、散財してしました。でもいちばんうれしかったのは、体調がよくなったこと。私は、父を糖尿病で亡くしていて、最期、厳しいカロリー制限で何も食べられなくなってしまった姿を強烈に覚えているので、そうなりたくないという思いもありました。体脂肪率48%のときは、脂肪代謝異常もあり、本当に、病気一歩手前だったと思う。そこで引き返せてよかった。

体調がよくなると、機嫌もよくなる。機嫌がいいから活動的になる。ずっと35度台の低体温だったのも、1度も上がりました。肌の調子もよくなり、太っていたときはどんなにケアしてもガサガサだったのが、痩せてからはシンプルケアでもしっとりです。

面白いことに、思考もネガティブからポジティブへと変化しました。からだが軽くなったら心も軽くなった。「あ〜よかった〜、あ〜幸せ〜」が口ぐせになって、日々のささやかなことに心が動き、明るい気持ちで過ごせるようになったんです。

まずは“自分の食”と向き合うことから

太っていてはダメ、ということではないんです。体調や機嫌がよくて、毎日笑顔で過ごせるなら、それで十分、その人は美しい。でも私は、体調が悪い→機嫌も悪い→ストレスをため込んでネガティブ思考に、の悪循環に陥っていたから、苦しかった。それが、痩せることで好循環になれて、すごく楽になりました。

なんでも極端なことは、長続きしません。糖質制限もそうです。生活習慣のなかにうまく取り入れて、食事のバランスを糖質過多から、タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維を多くするようにシフトしていく。お茶碗を小さくするとか、パスタを糖質オフのものに替えるとか、スーパーの惣菜コーナーの前を通らないようにするとか(笑)。行動をちょっと変えるだけで、特に若い人ならすぐ変化が感じられるようになると思いますよ。

もし、今の自分の体調と機嫌に気になるところがあるのなら、まずは、「好きなものベスト10」を書き出してみて、自分の食の傾向と向き合うことから始めてみては? 思わぬ気づきがあるかもしれません。

取材・文/剣持亜弥
撮影/高木亜麗
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 柳澤英子(やなぎさわ えいこ) 料理研究家・編集者。(株)ケイ・ライターズクラブ所属。sakamachi cooking lab.主宰。2011年、52歳のときに食を楽しむ独自の食事法を始め、1年後には26キロ減の47キロに。その後、リバウンドもなく、炭水化物の制限をゆるめても太りにくい体質と健康をキープ。忙しい人でも苦にならずにつくれる簡単レシピが好評。
    『ひとりごはん』『ふたりごはん』(ともに西東社)は続編含めて20万部超のロングセラー。『やせるおかず 作りおき』をはじめとする『やせおか』シリーズ(小学館)は累計260万部超の大ヒットに。近著は『料理のその手間、いりません』(小学館)、『柳澤英子のやせるおつまみ3行レシピ』(マガジンハウス)、『マンガでわかる ゆるくてもやせる!低糖質ごはん』(池田書店)、『ゆる糖質オフのダイエット鍋』(扶桑社)、『映える!おいしい!こんにゃく食堂 食べても食べても太らない』(小学館)。