アロマセラピスト太田奈月さんの 香り術<後編>

特集/においと香りと人のからだ

語り/太田奈月(調香師・IFA国際アロマセラピスト)

女性を美しく輝かせる香りづくりのプロでもある太田奈月さん。後編では、食事やバスタイムなど、毎日のシーンで気軽に香りを楽しむコツから、自分にとっての特別な香りの見つけ方まで、たっぷりご紹介していきます。 太田奈月さん

大好物のパクチーを食べて、エンジンを入れる

食事をする際には、味だけでなく香りも楽しみましょう。エスニックな料理が大好きで、週に3日ほどタイ料理を食べているのですが、その際も香りをフル活用しています。パクチーのサラダを食べると、一気に疲れが吹き飛ぶような、脳内で運動会が行われている感覚になります。パクチーはチアリーダーのような役割で、元気を与えてくれるもの。ほかには、アニス風味の鳥の唐揚げに、レモングラスのソースがかかっているものも、香りでエネルギーチャージできる最高のひと品。夏はエスニック料理がおいしい季節です。香りを味方につけて、元気に夏を過ごしましょう。

[香りの効能ワンポイント]
パクチー...勇気や元気を与え、気分を高める効果が。
アニス...ストレスを緩和して、ポジティブな気持ちに。
レモングラス...マイナスの感情をとりのぞき、神経を強化。

お風呂は暗くして自分との対話を

忙しい毎日のなかで、バスタイムは自分とじっくり向き合える時間。お風呂のときには、イランイランやジャスミンの香りを楽しんでいます。女性におすすめなのは、花の香り。イランイランやジャスミン、ラベンダー、ローズなど、花びらから精油をとったものは、女性の気持ちを安定させる作用が。そして、お風呂のときには、電気を落として、暗闇のなかにいる時間を意識的につくっています。原始時代の女性は、洞窟で過ごす時間があたりまえでした。現代は男性も女性も変わらず、バリバリ働く人が多いですが、原始時代のように、暗闇で過ごすことで、忘れてしまいがちな「女性性」を目覚めさせてくれると思うのです。暗くしたお風呂の時間は、私にとって「ひとり洞窟時間」。暗闇のなか、お花の香りに包まれながら、「女性としての自分」を見つめる時間をつくるようにしています。

[香りの効能ワンポイント]
ジャスミン...華やかな香りで、女性としての自信をとり戻す。
ラベンダー...怒りや疲労を和らげ、精神のバランスをとる。
ローズ...女性としての喜びを再認識。更年期特有の感情にも作用。

香害にはすっきりとした香りが効く

電車に乗ったときなど、人との距離が近くなるときに、強い香りがどうしても気になることが。そんなときにおすすめなのが、ペパーミントやユーカリの香り。あらかじめ、精油をハンカチにつけておいて。ハンカチをかぐことで、嫌な香りをガードできます。ペパーミントやユーカリは「排除力」が強いので、嫌な香りを寄せ付けない効果が。また、香りをつけすぎてしまっているかどうか、不安に感じる人もいるはずです。香りは「一瞬」を楽しむものだと意識しましょう。特に天然の香りには、持続力がありません。残らないからこそ、疲れたときや気持ちを切り替えたいときなど、そのつど「瞬間利用」するのがいちばんです。香水ならば、足りないかなと感じるくらいがベストです。香りは消えていくから美しいのです。

歩いた道や旅先の香りを感じましょう

通勤の帰り道でも、香りを感じることはできます。夏の蒸した夜風に、花の香りが漂ってくることがあります。初夏ならば、クチナシの花の妖艶な甘い香りを楽しめる時期です。夏の夜風とクチナシの香りはなんともいえないセンシュアルな気持ちにさせてくれます。「生きた香り」がいちばん。日々の生活のなかで、自然の香りをもっと感じていきたいものです。日常のなかだと、香りに慣れてしまっているので、なかなか気がつかないものですが、海外を訪れたときには、いろいろな香りに気がつくはずです。先日、オーストラリアを訪れたときには、ユーカリの香りをいたるところから感じました。そんなふうに、香りに意識を向けると、楽しみも広がりますし、香りのもつパワーを気軽にとり入れることができます。 香りのプロである太田奈月さんのスクールには、オリジナルで調合した「アロマ香水」や精油がずらり。自然の恵みがもたらす、ここちよい香りが部屋いっぱいに広がって。 香りのプロである太田奈月さんのスクールには、オリジナルで調合した「アロマ香水」や精油がずらり。自然の恵みがもたらす、ここちよい香りが部屋いっぱいに広がって。

最高の癒しは、懐かしい香り!

だれしも、懐かしく感じる香りがあると思います。ユズや畳の井草などを香るとホッとして落ち着く人が多いのでは。DNAに響く「理屈抜きに好き」と思う香りを探しましょう。私にとって、最高の癒しとなるのは、いれたての緑茶の香り。静岡県で生まれ、実家が茶農家だったこともあり、緑茶の香りをかぐと、安心感に包まれます。幼いころ、お茶工場から漂う香りが大好きで、その場所へ行くと、嫌なことを忘れることができました。もうひとつ落ち着くのが、森林の香り。心が疲れると、樹齢約1000年の杉がある山を訪れます。木の幹の香り、葉のみずみずしい香りに包まれると、気持ちが開放されていきます。私は、海よりも山や森に、懐かしさを感じるタイプ。「ここちよい」と感じる香りは、DNAに刻まれているはずです。だれもがもっている「懐かしい香り」を思い出して、疲れたときや元気になりたいときに利用しましょう。 イランイランは南国に咲く黄色い花。くるりとした花の形が「自由」や「開放」をイメージさせます。 どの香りにもあてはまるのですが、植物の生きた「姿・色・形・育つ環境」を思い浮かべながら香ると、効果が倍増します。イランイランは南国に咲く黄色い花。くるりとした花の形が「自由」や「開放」をイメージさせます。南国の甘い香りをかぎながら、ハンモックに揺れている風景を想像すると、心が生き生きと豊かに満たされます。

太田奈月 調香師・IFA国際アロマセラピスト
アロマテラピー・調香師のスクール「アクトインターナショナルスクール」校長。
英国ケンブリッジでアロマセラピーを学び、帰国後にスクールを開校。すべての人がもつ潜在的な魅力を引き出すための、「生きた植物の姿・形」をメッセージに替えて伝える「アロマパルファンメソッド」創設者で、「天然アロマ香水」のブレンドノウハウを国内外で伝授。心とからだに寄り添った香りの楽しみ方を提供している。
著書「香りの精油事典」(BABジャパン)では、55種類の精油を人物にたとえて、自由なストーリーで香りの特徴やおもしろさを伝える。
http://ais-tokyo.com

取材・文/川口夏希
撮影/長谷川 梓