服飾の歴史や文化へ誘う、京都服飾文化研究財団(KCI)広報誌より

服をめぐる

2020年2月12日

文/筒井直子(京都服飾文化研究財団 キュレーター)
写真/福嶋英城(京都服飾文化研究財団)

BEAUTY

【地産街道を行く⑨】

ラメ糸/城陽(京都)

KCIの収蔵品にみられる技法や素材の原点を求め、各地を訪れます。

KCIが所蔵する17世紀から現代の西洋服飾品類、約1万3千点のうち、ラメ製の作品点数を抽出してみると、とりわけ1920年代に集中していることがわかる。シャネル、ランバン、そして下図のヴィオネも多数のラメ製ドレスを制作した。様々な明度で光り輝く金、銀。この時代、ラメをはじめ、ビーズ、シークイン、ラインストーン製のドレスは欧米を中心に大流行した。こうした煌びやかな服飾品は、S・フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』(1925年)で描かるような華やかなパーティー会場を夜な夜な輝かせていたことだろう。 マドレーヌ・ヴィオネ イヴニング・ドレス「アンリエット」 1923年冬  フランス マドレーヌ・ヴィオネ
イヴニング・ドレス「アンリエット」
1923年冬 フランス
京都服飾文化研究財団所蔵 操上和美撮影
金銀に代わる糸
ラメ(lamé(仏))とは、金属糸や薄い金属を細く切ったものを用いた織物の総称で、17世紀ごろから使用された言葉だが、フランスのファッション誌などで頻出するのは20世紀に入ってからだ。それまでの金属素材でできた生地の表記は「金の(d'or)」「銀の(d'argent)」というように直接的に金銀を謳っているものが多い。実際の金、銀を含有した素材を身にまとうことで富や権力を示してきた時代のひとつの現れだろう。しかし現代に近づくにつれ、そうした特権的な素材は市民階級の人々の憧れの対象として様々な素材で模倣され、大量に出回ることになった。ラメ糸はそのひとつで、錫やアルミニウム、メッキで製造された。
ラメ糸工場を訪ねて
京都の南部、城陽市に日本で数少ないラメ糸を専門に製造する会社がある。泉工業株式会社は昭和39年に設立され、独自の糸の開発を続けてきた。現在ではラメ糸を一貫生産する国内唯一のメーカーだ。二代目社長の福永均さんにお話を伺った。「もともとラメ糸を作る会社は城陽に多いんです。京都の中心にも奈良にも近いですし。これまで和装に使われることが多かったからでしょうね。」

城陽では江戸時代、下級武士の女性達のあいだに和紙に金箔を貼って金糸や銀糸を製糸する仕事が広まり、材料や製法のかたちを変えながらこの地に伝わってきた歴史がある。「着物の需要が減った近年では、洋服や日用雑貨向けの出荷が増えています。」オフィスの応接スペースには、スポーツメーカーのロゴが金色のラメ糸で刺繍された上着や、野球球団のマスコットが銀色のラメ糸で織り出されたタオルなどが大量に並べられている。「100年前のラメ糸は金属を伸ばして切って、それを糸に巻き付けているものが多いと思いますが、現在のラメ糸の原料はポリエステルがほとんどなんです。」「金属ではなくてポリエステルなんですか?」

ポン、と目の前にロール状の透明フィルムが差し出された。「これがポリエステル製のフィルムです。まずこれに着色します。例えば、金色のラメ糸を作る場合は、この透明フィルムにオレンジ色を着色して、そこに銀を気化させてフィルムに薄く付けると金色になります。これを細く切って撚糸にすれば金色のラメ糸になるわけです。」私たちが普段目にする色とりどりのラメ糸の多くは、さまざまな色のフィルムと銀の組み合わせで出来ていたのだった。昭和30年代半ばにドイツのデュポン社がポリエステルの真空蒸着技術を開発したことで、ラメ糸の製造が飛躍的に進歩したという。 ラメ糸の原材料となる透明のフィルム ラメ糸の原材料となる透明のフィルム 透明のフィルムに銀を真空蒸着させたもの 透明のフィルムに銀を真空蒸着させたもの 泉工業で製造されたラメ糸。様々な色や質感がある。 泉工業で製造されたラメ糸。様々な色や質感がある
完成までの道のり
工場のなかに入ると、キラキラと七色に光るロールが目に飛び込んだ。強く反射する光の波に一瞬、クラッとする。「これを細く切って糸にするんですよ。その前段階の着色の様子もお見せしましょう。」

10メートルほどあろうかと思われる大きな機械のなかをゆっくりと透明フィルムが通っていく。少しツンとする匂いの液体のなかを通過すると、やや黒光りしたフィルムになってスルスルと出てきた。漆のような艶感が美しい。「これは玩具用のものなんです。」用途に合わせてきめ細やかに製造していくのが泉工業の強みなのだと福永さんはいう。わずかに違う色味の容器が機械の周辺に無数に並んでいるのもその証しなのだろう。試行錯誤の跡が工場内のそこかしこに見える。

次に案内されたのは、着色後のフィルムを細く切る現場だ。機械に縦にセットされたロールがクルクルと回り始め、銀色の刃の下をフィルムが流れる。すると機械の先から極細になったフィルムが次々と繰り出て途中から放射状に分かれ、一本一本が数メートル先にセットされたボビンへと吸い込まれていく。キラリとした幾本もの光の筋は、まるで夏の日に庭に撒くシャワーのようだ。聞くと150本に裁断されているのだそうだ。極薄で細いため糸切れには細心の注意が必要で、機械のメンテナンスは欠かせない。「この糸状のフィルムをさらに芯になる別の糸に巻き付けていきます。」その後、「カセ取り」や「蒸気セット」、「コーンアップ」という工程を踏み、長い道のりを経たラメ糸がようやく完成する。 1 原反のフィルムを大きく切り分ける(大切スリット) ①原反のフィルムを大きく切り分ける(大切スリット) 2 さらに細かく裁断するために機械にセットする ②さらに細かく裁断するために機械にセットする 3 鋭い刃で150本に裁断する(マイクロスリット)。これを後に撚って糸にする ③鋭い刃で150本に裁断する(マイクロスリット)。これを後に撚って糸にする ラメ糸ができるまで (図作成:坂田佐武郎(Neki. inc.))
若手デザイナーの手へ
「生地になるときの扱いやすさや耐性など、テストを繰り返しながら作っていきます。海外製のラメ糸は洗濯に向かないものも多いですけど、うちのは違いますよ。」糸1本に込められた技術と福永さんら生産者の思いは深い。

小高真理さんはそんな泉工業のラメ糸に魅せられたファッション・デザイナーの一人だ。「とにかく他にはない個性的なラメ糸が泉工業さんにはあるんです。表情が面白くて。いつも使いたくなりますね。」小高さんは2014年にニットに特化したブランド「malamute」を立ち上げた。泉工業のラメ糸は最初のコレクションから使っているという。「最新のコレクションでは、撚りのないラメ糸も使ってみたんですよ。」と2018年秋冬コレクションの作品を見せてくれた。黒のスカートのうえに繊細で美しいラメ糸の輝きが線香花火のように弾けていた。 malamute 2018年秋冬コレクションより malamute 2018年秋冬コレクションより スカートの装飾に泉工業のラメ糸が使われている スカートの装飾に泉工業のラメ糸が使われている
豊かな衣文化を支える技術
光や輝き方にも時代や地域によって好みがある。福永さんによれば、インドに納品しているサリー用の金ラメ糸は、赤黄色味の強いギラッとした金なのだそうだ。一方、日本人が好む金ラメ糸は明度を抑えたほのかな金だという。ほかの地域の好みをみれば、より広範なグラデーションがあるだろう。そうした差が地域の個性を輝かせ、衣文化を豊かにしている。そして、その背景には好みに応えられる技術をもった生産者がいることを忘れてはならない。 (文中に出てくる所属・肩書等は、取材時のものです)
© The Kyoto Costume Institute
(KCI広報誌『服をめぐる』第9号 2018年3月発行より)
京都服飾文化研究財団(KCI)

京都服飾文化研究財団(KCI) 京都服飾文化研究財団(The Kyoto Costume Institure, 略称KCI)は、西欧の服飾やそれにかかわる文献や資料を体系的に収集・保存し、研究・公開する機関です。現在18世紀から現在までの服飾資料を約13,000点、文献資料を約20,000点収蔵。それらを多角的に調査・研究し、その結果を国内外の展覧会や、研究史の発行を通じて公開しています。
https://www.kci.or.jp/

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