新訳からだ辞典「パンツ一丁」

2016年4月27日

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

HEART

今月のコトバ「生肌(なまはだ)」

今月のコトバ「生肌(なまはだ)」
肌にも流行がある
肌の美しさを的確に表現するのは難しいが、使える言葉はいろいろある。うるおい、キメ、ツヤ、ハリ、透明感、輝きなどの基本ワード。さらさら、しっとり、すべすべ、つるん、ふっくら、ふんわり、もっちりなどの擬態語。さらには、赤ちゃんの肌、花びら、むきたての卵、シルクなどに例える比喩表現。

川端康成(1899-1972)の小説には、レトリックを駆使した美しい肌の表現が満載だ。「娘の肌はすいつくようになめらかだった」、「胸は抜けるように白かった」(共に『眠れる美女』)、「白い陶器に薄紅を刷いたような皮膚」(『雪国』)などなど。さすが、日本人初のノーベル文学賞受賞作家だ。

ちなみに今、ノーベル文学賞の最有力候補ともいわれる村上春樹の肌表現は、たとえばこんな感じ。かなりファンキーだ。「日焼けがたまらなく魅力的だ。まるでカフェ・オ・レの精みたいに見える。背中にかっこいい羽をつけて、スプーンを肩にかつぐと似合いそうだよ」(『ダンス・ダンス・ダンス』)

本題に入ろう。「生肌」は、昨春ごろから頻繁に登場するようになった美容系の流行語だ。別の読み方もされるが、ここはきっちり「なまはだ」と読みたい。「生ツヤ肌」「ツヤ生肌」とアレンジされることもあり、今、美肌の理想形として、多くの美容マニアの心をつかんでいる言葉なのである。
ナマハダは色っぽい
説明抜きに、ひとことで肌の質感を想像させる「生肌(なまはだ)」ってすごい言葉。この2文字に「うるおい」「ツヤ」「しっとり」「もっちり」の要素が含まれ、川端康成の「娘の肌はすいつくようになめらかだった」のイメージに近付ける。生肌の決め手は、豊かな水分と確かな質感なのだ。さらさらのパウダー肌とは違う、ジューシーな重みのある色っぽい肌といえるだろう。

生肌(なまはだ)が素肌ではないことは、「生肌のつくりかた」というような特集記事が存在することからも明らかだ。しかしボディについては「生肌=素肌」といってよく、「生足(なまあし)」という類語が既に定着している。大辞泉によると、生足は「靴下・ストッキングをはいていない女性の足をいう俗語。素足」であり、「男には使わない」ときっぱり補足される。

ほかにも、生首(なまくび)、生皮(なまがわ)、生傷(なまきず)、生爪(なまづめ)などが定着しているが、これらは色っぽいというより痛っぽい。
真摯さを伝えるナマ
食べ物も、生がつくと高級感が生まれ、おいしそうになる。生菓子、生クリーム、生キャラメル、生チョコ、生ハム、生春巻、生パスタ、生ビール......ああ、たまらないわ。大辞泉によると生菓子は「①餡を主に用いた和菓子。餅菓子・蒸し菓子、まんじゅう・ようかんの類。水分を多く含むため長もちしない。②クリーム・果実・ゼリーなどを使った水分の多い洋菓子。シュークリームの類」とある。やはり生は、水分がキモなのだ。

生菓子の例の中で、最も生肌に近いのは、確かな質感とツヤのある「ようかん」だろう。ようかんは生菓子であり長もちしない、と大辞泉は言うが、とらやの羊羹は、常温で長期保存が可能。充分な加熱工程と徹底した衛生管理に加え、砂糖の含有量も多く、賞味期限は製造から1年、賞味期限後さらに1年は食べられると公式ページに書いてあった。しっとりとした色気をたたえつつ賞味期限も長い、とらやの羊羹のような生肌を目指してみたい気もする。

ところで、とらやの羊羹は、おわびの品としても定評がある。ずっしりとした重厚感と高貴なツヤが、真摯な気持ちの表明にふさわしいのだろう。おわびに行く時のメイクも、粉っぽい厚化粧は避け、ツヤ生肌でキメたいものである。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。

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