インサイドストーリー

商品づくりの現場から

2014年7月30日

語り/山田 隆登
取材・文/大庭典子(ライター)

BODY

【特集/姿勢に自信ありますか?】

美しい姿勢をサポートする「着席美人」開発秘話

Image デスクワーク中、無意識に足を組んでいたり、足が開いていたり...美しい座り姿をキープするのは至難の業です。今回は、7月に発売された、座っているときの美しい姿勢をサポートする、新商品ボトムインナー『着席美人』について、徹底取材。誕生にいたるまでの年月や経緯、完成させるまでに大変だったこととは? ワコール人間科学研究所 開発担当の山田隆登に取材しました。

――座り姿勢を美しい状態でキープする『着席美人』。この商品が誕生する、発想のきっかけはどんなことだったのでしょう?

山田
 「この商品が生まれるきっかけは、自分たちの実感として、"長時間座っていると感じる腰や背中の違和感"があったこと。これを改善することができたら...そこには大きなニーズがあるのではないか、と考えたことから始まりました」

――そうなんですね。1日座ってパソコンに向かっていると、姿勢のいい時間って、ほんのわずかな感じがします...。

山田
 「本当に。僕は、まわりの人からも指摘されるくらいの座り姿勢が悪いタイプでして...(笑)。座っているときは、足を組んでいることが常だったんですね。自分ではラクだと思って、姿勢を崩しても1日座って作業していると、からだのあちこちが痛い。

そこで、座り姿勢のときのからだの負担を減らしながら、同時に会社の目標である"女性の美しさ"もかなえることができたら、とプロジェクトが始動しました。実際に医師や理学療法士の先生など、専門家の方とディスカッションを重ねるうちに、"からだに負担の少ない姿勢"と"美しい姿勢"には共通項があることが分かってきたんです」

――え?!美しい姿勢のほうが負担が少ないのですか? 見た目は悪いですが、姿勢を崩しているときのほうが"ラク"な感じがします...。

山田
 「そうですよね、よく分かります。背筋を曲げてベタっと椅子に腰掛ける姿勢は、一見"ラク"に思えます。なぜかと言うと、背中の筋肉に力を入れていないので、"意識的には"ラクなのです。ところが背中で支えていない分、この姿勢を保つためには骨や靭帯がその負担を請け負っているのです。崩した姿勢でいることは、骨や靭帯にはけっこうな負担がかかっているんですよ。

逆に美しい姿勢の場合は、背中の筋肉を使わなくてはならないので、姿勢のことを"意識"しなければならないのですが、その姿勢を保つための負担は、バランスよく分散されているので、実は、骨や靭帯への負担はかかりにくいのです。つまり、美しい姿勢というのは、からだへの負担がかかりにくい姿勢だということです。

そこで、座ったときにいい姿勢とそうでない姿勢、この違いはなんだろうと、その違いを研究していきました。美しく見える人とそうでない人の膨大なデータを取り、分析し、医師などの専門家の意見を聞くなかで、座り姿勢の美しさを決める最大のポイントは"骨盤"だということがわかりました。

つまり、座り姿勢の美しい人は、骨盤がきちんと立っていて、姿勢の悪い人は骨盤が寝ているんです」 Image 「座り姿勢を美しくキープするには、骨盤を立たせることが要。このセオリーが分かったところで、次は、果たして、その働きかけを衣類で行うには何が必要でどんな構造を考えればいいのか...と試行錯誤が始まりました。」

――何かヒントにしたことはあるでしょうか?

山田
 「骨盤が立っている状態の座り姿勢と言えば..."正座"だ、と。お坊さんが座禅に使う"坐蒲"がどのようにからだを支えているかの構造をヒントにしたり。同時に座るときのお尻の形状でも重要なことが分かったんです」

――座るときのお尻??

山田
 「はい。座るときには、誰もがお尻の周径が広がるのです。ガードルを履いていれば、生地が伸びるということ。この伸ばされたときの戻る力を利用して、ヒップを4方向から矢印の向きに力がかかる構造にしました(図1参照)。お尻を下から上に持ち上げる4つのラインによって、骨盤が立つのです。例えるなら、お尻の下に手を置いたような状態...と言ったらわかりやすいでしょうか?」 Image ――あ、なるほど。手をお尻の下に置くと腰がまっすぐ伸びる感じがしますね!

山田
 「はい。自然に骨盤が立ちますよね。この4つのラインで座ろうとしてかがんだときに骨盤が自然と立つ状態をつくっています。さらに、その姿勢をキープするために、腰とお腹の前後から力をかけて、骨盤が倒れないように支えています。」(図2参照) Image ――お腹の力と骨盤は関係があるのですか?

山田
 「大ありなんです。お腹に力が入らず、へなっとしてしまうと、骨盤もうしろに倒れ、姿勢も崩れてしまいます。腰からお腹にかけて、パワーのある生地を使い、前後から支えることで、骨盤の立った姿勢をキープしやすくしているのです」

――そうなんですね! 『着席美人』は、始動から完成まで、どのくらいの時間がかかったのでしょうか?

山田
 「およそ2年でしょうか」

――そ、そんなにも?! いちばん時間をかけた、大変だったという点はどこですか?

山田
 「そうですね。"骨盤"を立たせるためには、どこにラインを設置するのがいいのかの研究、ここがいちばん苦労したところです。いろいろなパターンで試し、姿勢がよくなっているか、骨盤が立っているか、試作を何十枚もつくり、写真でどこに効いているかを細かくチェックしていきました。また、ラインの強度も強すぎては締め付け感があるので、ちょうどいい強さを探すのにも何十パターンと試作を重ねましたね」

――すごいですね。ちなみに、『着席美人』を履いて、立つとどんな状態になるのでしょうか。

山田
 「立っているときは、一般的なガードルの機能が備わっている商品になります。あとは、たとえばリクライニングシートなど、リラックスしたいときなどもできますよ。『着席美人』は、きれいな姿勢で座ろうとした際、履いているときとそうでないときに差が出るのです」

――姿勢の持続時間などはあるのですか?
山田
 「モニターの方に感想を伺うと、1日きれいに座れたことを実感したという方がほとんどでした。普段足を組む習慣がある人も、このガードルを履いていると、足を組みたくなくなる、なんて意見もありましたね。かくいう足癖の悪い僕も...実感しました」

――それはいいですね! これを履いて、いいポジションをからだが覚えてくれることを祈りつつ...着席美人を目ざします。今日はありがとうございました。

山田
 「ありがとうございました」
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山田 隆登(ヤマダ タカト) 人間科学研究所 開発二課 主任
立命館大学の生体情報研究室卒業。
大学では、人間の脳波や心電図などの生理情報や、感覚や感性などの心理側面に関する情報、反応や追従などの行動能力や日常生活行動に関する情報など、人間の生理・心理・行動に関わる生体情報を研究。
2007年入社後、日常から運動シーンにおける不具合を解消する新商品の開発を行っている。
コンディショニングウェアCW-X(シーダブリューエックス)の柔流(ジュウリュウ)やサポートタイツの開発、グラッピーのひざサポート、股関節ガードルの評価など、一貫して製品の研究開発に携わっている。

イラスト/楽谷玲子

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