今月のコトバ「たらふく(鱈腹)」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
今月のコトバ「味変(あじへん)」

タラの食欲のひみつ

「たらふく」とは「おなかいっぱい」という意味。主にたくさん飲み食いするときに使われるコトバだ。辞書を引くと「餅をたらふく食う」「魚と肉をたらふく食べてぐっすり寝た」「久しぶりにごちそうをたらふく食べて満足だ」「遠慮せずたらふく食べなさい」など、幸せな例文が出てくる。たらふくの世界には、少食やダイエットといった概念は存在しないようだ。

「たらふく食べた」というセリフは、満たされた人にしか言えない。「食べ過ぎた」と言ってしまいがちな現代においては、レトロな表現であるともいえよう。飲食店のメニューやグルメギフトで「たらふくコース」「たらふくプラン」のようなネーミングを見ると、ほっこりする。なんとなく年末年始の気分が漂うのは、「たくさんの幸福」を連想させる語感によるものかもしれないし、「タラ(鱈)」と「フク(河豚)」という2種類の冬の魚が入っているからかもしれない。

たらふくの当て字としては「鱈腹」が定着しており、もっともわかりやすい語源は次のようなものだ。タラという魚は、海底近くに生息する肉食魚であるため、エサが不足しがちで、食べられるときに食いだめをする習性に由来するという説。実際にタラは食欲旺盛で、おなかがふくれるくらい、たくさん食べるのである。

エスカレートするタラ

当て字に「鱈」が使われているコトバは、たらふくだけではない。優等生的な「たらふく(鱈腹)」がやさぐれた先には「やたらめったら(矢鱈滅多ら)」という投げやりな慣用句がある。乱れやすい変拍子のリズムに由来し、節度のなさを表す。たらふく食べるのは問題ないが、やたらめったら食べまくるのは、やめたほうがよさそうだ。

さて、「やたらめったら」がさらにエスカレートすると最終的にどうなるのか? もうおわかりですね。「でたらめ(出鱈目)」である。サイコロを振って目が出たら、その目のままにするという意味で、いい加減で筋の通らない言動のことを指す。ときには運を天にまかせるのも悪くないと思うけれど、すべてをサイコロの目で決めるような生き方を、でたらめというのだろう。

でたらめは、歌謡曲やJ-POPの歌詞にもよく登場する。でたらめな世界、でたらめな日々、でたらめな夜、でたらめな愛、でたらめなメロディー、でたらめな言葉、でたらめな俺……。自虐的だけど、その先に幸せがあるようで「ちょっとステキ」と感じる人もいるのでは? ワルイとか、ダメとか、ヤバイのように、必ずしもネガティブな意味だけではないアンビバレントな魅力をはらんでいるのである。

でたらめ(出鱈目)な妄想

そもそもタラという魚は、イカ、タコ、エビ、カニ、小魚、貝類など、でたらめに何でも食べるらしい。そういえば、タラバガニはタラと生息域が重なり、同じ漁場でとれることから「タラバガニ(鱈場にいる蟹)」とネーミングされたと聞く。タラ漁の漁船員が網を海底までおろしてしまい、あわてて引き上げたところ、見たことのないカニがかかっていたのがタラバガニ漁の起源なのだ。タラを使ったかまぼこの表示に「原料がカニやエビを捕食しています」と書かれているのを見たことがあるけれど、もしかして、タラがタラバガニを食べていたりして……と妄想が止まらない。

ちなみにタラは、脂質が非常に少なく、低カロリーで高タンパクな魚。漢字のタラが鱈(魚へんに雪)なのは、身が雪のように白いことや、初雪のあとにとれることに由来するらしい。ふわっとやわらかくて、たいした熱量にもならないのだから、まさに雪のようではないか。大食いのくせに、自分自身のからだは脂肪が少ないなんて、大いに見習いたいところだ。とりあえず、タラをたらふく食べよう。って、こんな結論でいいのか!?

  • 相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
    疲れたときは、味覚的にも語感的にもベトナム料理に癒される。
    フォー、ブン、ミー、チャオ、ソイ、ラウ……とくにデザートのチェーは最強!

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