今月のコトバ「味変(あじへん)」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
今月のコトバ「味変(あじへん)」

味変と変味のちがい

味変(あじへん)とは「味を変化させる」の略。近年、主にB級グルメ界隈でカジュアルに使われるようになった俗語である。たとえば、麺類などに添えて出されるネギやワサビや唐辛子といった「薬味(やくみ)」による味変。もちろん、これらを最初から全投入してはイケナイ。味変の醍醐味は、食べている途中で味を変化させるライブな楽しみ方にあるからだ。唐揚げにレモン汁をかけるタイミングも、食べる前ではなく途中からにすれば、ドラマチックな味変が楽しめるはずなのだ。

類語としては、味が変わることを意味する「変味(へんみ)」という熟語がある。こちらは広辞苑にも載っているが、勢いのある「味変(あじへん)」に比べると地味な印象だし、はっきりいってマズそう! いま世の中に求められているのは間違いなく、料理をポジティブにギアチェンジさせ、驚きや喜びをもたらしてくれそうな「味変」のほうだろう。

味変が最もホットにおこなわれているのは、鍋やラーメンの世界である。なぜなら、潤沢なスープには、何らかのアレンジを加えたいと思うのが人情だから。しめの雑炊なども、味を変えることで、別の一品を食べたようなお得感が得られるというわけだ。早い話が、飽きずに食べ続けるためのくふうなので、調味料の追加などは「ちょい足し」にとどめ、塩分のとりすぎには注意したいものだ。

おいしさを決めるのはだれ?

最近は、味変を積極的に客にすすめるお店も多い。イタリアンのファミリーレストラン、サイゼリヤはその筆頭ではないだろうか。シンプルなニンニクのパスタは、自分でオリーブオイルや黒コショウ、別売りのチーズを加えたり、ベーコンと温泉卵入りの青豆サラダを混ぜ込んでカルボナーラ風にアレンジすることを推奨している。また、ミラノサラミに至っては、パンに自力で切り込みを入れ、はさんで食べようと提案する。これはもはや「調理」の領域では?

サイゼリヤの社長が書いた外食経営の指南書には、こんなフレーズがある。「おいしいかどうかはお客様が決めるのであって、私が決めることではない」。え、そうなの!と一瞬驚いたが、これこそが顧客の好みを大事にする味変サービスの極意かも。「サイゼリヤは毎日でも食べられる日常食を提供する店だから、素材本来の味を生かすことが重要で余計な味付けは不要だ」とも。なるほど、もとの料理をひかえめな味付けにしておくことが、味変のポイントなのだなと納得した。

別のお店での話だが、この間、パスタをシェアして食べたところ、塩気がなかった。以前同じものを食べたことがあり、今回は明らかに「味をつけ忘れた」という感じ。テーブルに調味料はなく、同行者と協議の結果、思い切って塩をもらうことにしたのだが、とくに何も問題はなくスムーズにコトは進んだ。気の弱い人間としては、「味がついてませんけど」とか「塩ください」とか言うのって抵抗があるけれど、味変ブームのおかげで、以前より調味料を気軽に頼みやすくなったような気がしたしだいだ。

好きなものをふわっとまとう

さて、話題もおしゃれに味変しよう。前述の経営指南書には「料理は衣服選びに似ている」と書かれていたが、私もそう思う。味変というコトバは、今やファッションやメイクの領域でも使われている。「バッグと靴でコーディネイトを味変」「甘めのスカートを辛口に味変」「いつものリップに味変リップを重ねて輝きをプラス」という具合に。

甘口や辛口はファッション用語でもあり、「味変」が思いのほかなじむ。単に「変える」というよりも、小物ひとつで瞬時にパッと変身できるニュアンスが生まれるようだ。味とは本来、目に見えない感覚だから、表面的な変化よりも、ふわっとストールを巻いた瞬間の温かさとか、シュッと香りをふきつけたときの気分の高揚などが、味変の本質なのかなとも思う。

変化しなければいけない時代といわれているけれど、自分自身を変えるのは、カラダであれ考え方であれ、なかなか難しい。周囲の状況を変えるのは、もっと難しいだろう。そんなとき、内なる感覚を手軽にリフレッシュできる味変が、突破口になるかもしれない。疲れたときも、体力や気力があり余っているときも、日常のささやかな気分転換という魔法を使ってみたい。

  • 相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
    疲れたときは、味覚的にも語感的にもベトナム料理に癒される。
    フォー、ブン、ミー、チャオ、ソイ、ラウ……とくにデザートのチェーは最強!

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