今月のコトバ「ランジェルック」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「ランジェルック」

下着ルックからランジェルックへ

「ランジェルック」とは、ランジェリーを見せるファッションのこと。その前身は「下着ルック」で、ジャン=ポール・ゴルチエが1982年、コルセットを露出させるファッションを発表したのが始まりといわれている。ちなみに「パンツルック」は、下着のパンツを露出させるファッションではない。1954年、オードリー・ヘップバーンが『麗しのサブリナ』ではいたサブリナパンツがきっかけで流行したパンツスタイルのことだ。

下着ルックは、何度か流行を繰り返し、次第に「ランジェリールック」と呼ばれるようになった。装飾的な下着を表す「ランジェリー」という口当たりのいい言葉によって、「下着を見せるなんて恥ずかしい!」という抵抗感は、かなり薄れたのではないだろうか。

そしてついに、ランジェリールックの進化形・短縮形である「ランジェルック」という言葉が登場したというわけだ。この軽やかさ、このリズム感。「ランジェ」という言葉に、もはや下着っぽさはない。ただしフランス語の「ランジェ(linge)」には「下着類、ランジェリー」という意味がちゃんとあるのだ。適当なノリで略された和製仏語ではないことを、ランジェルックの名誉のために補足しておきたい。

ランジェのジェに魅せられて

ランジェという言葉は、ジェで終わっているのがポイントで、この語尾が、得も言われぬエキゾチックな魅力を放っていると思う。ジェで終わる日本語というのはあまりない。2013年に流行った「じぇじぇじぇ」くらいだろう。

外来語なら、オブジェ、ブラマンジェ、コンシェルジェ、ネグリジェなどがポピュラーで、すべてフランス語由来だ。冷静に元の意味をたどれば、オブジェは「物」だし、ブラマンジェは「白い食べ物」、コンシェルジェは「管理人」で、ネグリジェに至っては「だらしない」という意味だったりする。語源よりも、イメージのほうを楽しんだほうがいいかもしれない。

ジェで終わる言葉で別格なのは、ル・コルビュジェという固有名詞ではないだろうか。近代建築の巨匠だが、読みにくさにおいても巨匠級。格調高いブランド感を醸し出している。ただ、この名前はペンネームだそうで、祖父の名前ル・コルベジエに由来するとか。わざわざ発音しにくい名前にアレンジしたセンスがすごいよね、と思うのは日本人だけだろうか。

ステキなランジェリーの活かし方

一方、ランジェルックの「ルック」には、レトロなおしゃれイメージが漂う。「シャネルルック」の原型がつくられたのが1920年代で、ディオールが「ニュールック」を発表したのは1940年代。「サファリルック」や「ミリタリールック」の最初の流行は1960年代だ。「レナウンルック」という会社や「ルックチョコレート」というブランドが生まれたのも1960年代。「マリンルック」が最初に流行したのは1970年代である。

「下着ルック」が1980年代に始まったことは冒頭に記した通り。「ランジェルック」は、それらの「ルック」のレトロなイメージを踏襲しながら、未来を見ている。これは、見せるファッションによって、ランジェリーの出番を増やそうという、クローゼットの新陳代謝革命なのだ。なかなか着る機会のない高級なランジェリーを、もっと外に出してあげようよという......。

もちろん、ランジェリーをすべて見せる必要はない。ランジェリーはランジェリーとして、とっておきの時に着るだけでもいいし、ステキなものは、そこにあるだけでいい。私は「タンスの肥やし」という言葉が嫌いだ。ランジェリーに関しては特に。ステキなランジェリーが収納されているあたりを、私は「クローゼットのパワースポット」と呼んでいる。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画愛好家。
好きなネット用語は「パンくずリスト」。自分が今どこにいるのかを示す階層表示のことだが、ヘンゼルとグレーテルが森で迷子にならないよう通り道にパンくずを置いていったエピソードに由来すると知り、キュンとした。

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