今月のコトバ「身(み)」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「身(み)」

身(み)にはドラマが詰まっている

身(み)とは、人間のカラダのこと。「身につける」「身のこなしが軽い」「身を引き締める」のように使われるが、この言葉は、身体そのものを指すだけではない。「生身の自分自身」というべき深い本質を秘めており、身(み)を使った慣用句は、ドラマチックで切実なものが多いのだ。

たとえば「身のほど知らずの恋に、身を焦がし、運命に身を任せるものの、身を切られる思いで別れる人生」とかね。あるいは「身を粉にして働くが、身も蓋もないことを言われ、身が持たず、身を持ち崩す人生」とか......。あれ、身(み)って、もしかしてネガティブな言葉? いやいや「身を入れて勉強し、身を立て、結婚して身を固め、身に余る幸せを享受する人生」だってある。

食べものにも、身(み)という言葉はよく使われる。魚の切り身や刺身、肉の赤身と脂身、貝のむき身、卵の黄身と白身、鶏のささ身などだ。『日本の言葉の由来を愛おしむ』(高橋こうじ著・東邦出版)によると、身と実はもともと同じ言葉だったとか。私たちの先祖は、人、動物、植物を分けず、栄養分など大切な成分が詰まっているものを「み」と名づけた。「身体=大切な実」なのかと思うと、自分が良いものになった気がしてくるではないか。

人間を変えてしまう言葉たち

言葉の由来を知るだけで、ものごとに対する印象や身体感覚が変わってくるのは面白い。「ゆるす」とは、心をゆるめることだし、「はぐくむ」とは、羽でくるんで大事に守り育てることなんだって。意表を突かれたのが「打ち合わせ」で、太鼓に合わせて笛や琴を演奏する雅楽のリハーサルのことだという。いつもの打ち合わせがバンド練習のように思え、楽しみになってきた。

言葉には、行動を変える力があると思う。ポジティブな言葉でものを考えれば、楽しい日々を過ごせそうだし、すさんだ言葉で考えれば、とげとげしい人になってしまうかも。「思考は現実化する」とナポレオン・ヒルも言っている。

口に出す言葉の力も計り知れない。「疲れた」とつぶやけば、疲れた人に見えるだろうし、「もう若くないから」と言い訳すれば、もう若くないんだなと理解される。「疲れてるね」と声をかければ、相手をさらに疲れさせ、「キレイだね」と声をかければ、相手を少しキレイにするだろう。

元気に食べてカラダをほめよう

ティラミス(Tira mi su)を食べると気分がよくなるのは、この言葉が「私を上に引っ張って(=私を元気にして)」というイタリア語であることと無関係ではないと思う。英語ならPull me upまたはCheer me upで、こんな命令文をデザートにしてしまうなんて、ラテン系の国ってさすが。だが、日本にも「ぜんざい(善哉)」という感嘆文のデザートがあるではないか。一休さんが最初に食べたときに「善哉(よきかな)!」と叫んだことから命名されたらしい。

これからの人生、なるべくなら気分のいい言葉を選んで生きていきたいと思う。大好きなデザートを食べ過ぎて、ついてしまった贅肉なら「ぶよぶよ」ではなく「ぷよぷよ」とかわいく表現したいし、「はみでる」よりも「こぼれる」と言ってみたい。こぼれるという言葉には、豊かさを喜ぶポジティブなニュアンスが宿っているのだから。

贅肉の豊かさを手放しで喜びすぎると、別れがつらくなってしまい、それはそれで問題かもしれない。だけど、せめて自分のカラダにくっついている間は、「大切な分身」として、愛してあげてはいかがだろうか?

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。

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