今月のコトバ「はだか」

文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代

今月のコトバ「はだか」

セクシーなのは裸体?裸身?

はだかって、シンプルで気持ちのいい言葉だと思う。ただし、熟語になると少々ワケありのニュアンスが生まれる。『使い方のわかる類語例解辞典』(小学館)によると「裸」の類語は「裸体」「裸身」。関連語は「真っ裸」「素っ裸」「丸裸」「赤裸」「全裸」「半裸」「ヌード」とある。

それぞれの例文がわかりやすくて面白い。「裸になって風呂にとびこむ」「豊満な裸体」「清らかな裸身」「真っ裸の子供」「ばくちに負けてすっ裸にされた」「身一つで焼け出されまる裸になった」「皮をむかれて赤裸にされたうさぎ」「全裸絞殺死体」「半裸になって体操をする」「ヌード写真集」......。

もっともセクシーなのは裸体で、スレンダーなのは裸身だろうか。素っ裸と丸裸はドラマチックだし、赤裸はセキララ過ぎてかわいそう。自意識過剰な裸は何といってもヌードだ。ヌードとは「主に見られることを意図して裸になることをいう」と『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)にも書いてある。

先日、米プレイボーイ誌がヌードグラビアの掲載を来年3月号からやめると発表した時は、ヌードという言葉がなんだか古めかしく感じられた。今の時代の気分は断然、ナチュラルな「はだか」だと思う。「ヌードになって」と言われることには抵抗感があるが、「はだかになって」と言われたら二つ返事でオッケー、という人も多いのではないだろうか。え、そうでもないですか?

はだかを心配する日本人

「はだかで持ち歩く」という言い方もいいなと思う。主に「はだかで持ち歩くのはやめたほうがいいよ」というふうに使われ、むきだしのモノを包んであげたいという気持ちが感じられるからだ。実際、日本では、お金や書類や食べ物をはだかで持ち歩いている人に、封筒や紙袋が差し出される場面は多い。

はだかの無防備さを心配するやさしさは、日本特有の文化なのかもしれない。バゲットを買うと、日本のパン屋さんは紙袋に入れてくれ、さらに保存用のビニール袋までつけてくれたりするけれど、フランスではそのまま小脇に抱えて歩いている人は珍しくない。会社や学校で、煎餅やカットしたリンゴを机の上にダイレクトに置いている外国人を見て、軽く驚くこともある。

私は先日、新しいスマホを買い、はだかのまま持ち歩いていたのだが、ケースを買わないんですかと、手先の器用なデザイナーがダンボールで即席のスマホケースをつくってくれた。新品な感じが即座に薄れたが、ありがたいことです。

ジュリエット・ビノシュのように

はだかでやってみたいことといえば、屋外で泳ぐことだ。映画にはよくあるシーンだが、とても気持ちよさそうで憧れる。ヒロインたちは、心の準備も水着やタオルの準備もないまま、海や川やプールに飛び込んでいく。

最近の映画では『アクトレス〜女たちの舞台〜』で加齢に直面する大女優マリアを演じたジュリエット・ビノシュ。若きマネジャー(クリステン・スチュワート)と湖に入るシーンがあった。マネジャーはブラとショーツをつけたままだが、マリアは全部脱ぎ捨てて走り出し、先に飛び込む。監督との事前の打ち合わせは「暑くて水に入る」ということだけだったらしいから、あっぱれだ。

温泉やスパに行くと、ビノシュのような日本人がずいぶん増えたなと感じる。そのあっけらかんとした脱ぎっぷりは、裸体でも裸身でもヌードでもなく、真っ裸の進化形「すっぽんぽん」という言葉がふさわしい。この言葉の歴史は浅く、1991年に広辞苑に収録されたのだという。大相撲で若貴ブームが起き、ヘアヌードが事実上、日本で解禁された年である。

相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ランジェリー、映画愛好家。最近いいなと思ったのは、映画「暗くなるまでこの恋を」で妻(カトリーヌ・ドヌーブ)の裏切りに気づいた夫(ジャン=ポール・ベルモンド)が、彼女の下着を次々と暖炉で燃やすシーン。

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