2022.02.09

【特集】更年期と睡眠の深い関係 #03

心がゆるむ「好きなこと」が眠りへのスイッチ。自分基準の楽しみを見つけよう

婦人科専門医 松村圭子先生

---- 眠ろうと思ってもついつい考えごとをしてしまい、眠れない…。これは「オン」のスイッチが入った状態が続いている証拠で、おとな世代に多い悩みのひとつです。その理由を解説した#01#02に続き、今回は「オフ」のリラックスモードに切り替える方法を考えます。

自分だけの
切り替えスイッチをもとう

オンとオフの切り替えが上手にできなくなる更年期において、大切なのは自分で「スイッチをつくること」です。切り替えとなる儀式を自分でつくり出すことで、眠りやすい状況をつくります。といっても何をしたらよいかわからないという人も多いでしょう。オンからオフへの切り替えの基準となるのは「自分がそれを楽しめること」。

成城松村クリニック松村圭子先生

入眠儀式に関しては、さまざまな情報がたくさん出回っています。「ゆったりとからだを動かすヨガがいいらしい」「英会話を聞きながら横になると眠りやすいらしい」など(笑)。もちろんそれが好きなら何の問題もありません。ですが、自分が興味もない、楽しくもないのに、無理にやっていても効果は期待できません。1日の嫌なことや疲れもふき飛ばせるような自分の好きなことを行うことで、オンからオフへとスイッチが切り替わるのです。

私の場合、それはお酒です。どんなに疲れていても、頭がさえて考えが止まらなくても、お酒を飲みながら撮りためたドラマの録画を見ているだけで、少しずつ心がゆるんで、楽しい気持ちになるのを感じます。

お酒って、寝る前に飲むのはダメじゃない? と思った方もいるかもしれません。はい、寝るためだけに飲む寝酒はもちろんNGです。でも、私はお酒を飲んでいるときにスイッチがリラックスモードに切り替わるのですから、自分にはこれが合っているのだと思います。実際によく眠れているという自分データもあります。

一般的にどうかというよりも、自分が好きなことで、それをやったらいい気分で寝床に入れることってなんだろう?と考えてみてください。梱包材のプチプチをひたすらつぶす…そんなことだっていいんですよ。人が聞いたらギョッとすることでも、自分の基準で考えてみてください。私は今、更年期世代の真っ只中ですが、眠れないことで悩んだことはまだありません。これは自分なりのスイッチをもっているからなのだと分析しています。

知らずにやっている
眠りへの悪習慣とは?

それでもどうしても眠る前にあれこれ考えてしまう方へ。夜のうちに何か物事が進むことなんてほとんどありません。つまり、悩んでも悩まなくても状況は変わらないのだと自分に優しく言い聞かせてください。

人間の脳は、行動と場所をセットで覚える習性があります。ベッドに入ったあとに、心配や不安なことを考え続けて「眠れない」とゴロゴロしていれば、いつしか脳は「ベッドは眠る場所ではない」と覚えてしまい、それが習慣化してしまいます。

どうしても 眠れないときは、いっそのこと一度ベッドから出て、水を一杯飲むなど起きた状態でリラックスするのも手。眠たくなってからベッドに入ることが睡眠の習慣のためにはいいことなのです。眠れないからといって、間違っても人のS N Sをのぞくなどというムダなことはしないでくださいね。他人の隠れ自慢を見て気分は落ち込むわ、ブルーライトを見た脳は昼間だと勘違いして、また交感神経を働かせてしまいさらに眠れなくなり、百害あって一利なし。自ら悪循環のなかに飛び込むのはやめましょう。

日曜の夜、無性に悲しくなるのは
睡眠負債が原因?!

睡眠が思うように取れなくなると、休日にまとめて眠ればいいだろうと考えるかもしれませんが、それもかえって睡眠を妨げてしまう原因になります。

毎日の睡眠不足によってたまってしまった「睡眠負債」は、まとめて返済はできません。休日だけお昼近くまで寝てしまうなんていう方もいます。このズレは社会的時差ボケと呼ばれます。

よく寝て疲れも取れるのかと思いきや、実際には逆のことが起きているのです。日中も交感神経が優位にならず活発に動けなくなったり、夕方にサザエさんを見てワケもなく泣けてきた…など、自律神経が乱れた状態をつくってしまうのです。その日の夜の睡眠の質を下げないためにも、休日に少し多めに寝たいときは、いつもの睡眠時間プラス1時間程度にとどめてください。

松村圭子先生からの
「眠れないとき」解消アドバイス

  • □ いい気分で寝床に入れること、自分だけの楽しみを見つけよう
  • □ 夜の時間に悩んでも、状況が変わらないと自分に言い聞かせる
  • □ 眠れないときは、いったんベッドから出て別のことをする
  • □ 休日の寝だめはNG。長くても平日プラス1時間程度に

----連載最終回の次回#04では、睡眠の鍵が「朝」にあることについて、松村先生の実体験を交えてお話しいただきます。

  • 松村圭子 婦人科医、成城松村クリニック院長。婦人科専門医として、月経トラブルから更年期障害まで、女性の一生をサポートする診療を行う。西洋医学のほか、漢方やサプリメント、点滴療法による幅広い治療方法で、女性のあらゆる不調をケア。小さな悩みごとでも相談しやすく、姉御肌の頼れる女医として人気。『これってホルモンのしわざだったのね 女性ホルモンと上手に付き合うコツ』(池田書店)や『40代からの「女性ホルモン力」を高める簡単ごはん 』(芸文社)など著書も多数。 成城松村クリニック
取材・文/大庭典子
撮影/望月みちか
デザイン/日比野まり子