2021.12.22

【特集】更年期と睡眠の深い関係 #01

50代女性の平均睡眠時間は6時間半。ホルモンの変化と深い関係が

婦人科専門医 松村圭子先生

----おとな世代の中には、「眠れない」「寝ても途中で起きてしまう」など、睡眠の質の変化を感じる人が増えています。その原因となるからだの仕組みについて、更年期症状を含め女性のあらゆる不調をケアする成城松村クリニックの松村圭子先生が解説します。

成城松村クリニック松村圭子先生

睡眠時間&睡眠満足度
ともに世界最下位の日本

世界でもっとも睡眠時間の少ない国はどこか知っていますか? 自分の睡眠を考えて悪い予感がする…と思う方もいらっしゃると思いますが、そう、残念ながら日本です。長年最下位争いの常連でしたが、ついに2018年に15歳~64歳の平均睡眠時間で、経済協力開発機構(OECD)加盟国30か国のなかで、韓国を抜いて第1位となりました。当然、睡眠満足度も世界でワーストという結果が出ています。

世界各国の睡眠満足度

さらに日本人の眠りについて見ていくと、世代別、性別である特徴がみえてきます。それは、30代以降、40代も50代も60代も「男性よりも女性のほうが睡眠時間が短い」ということ。これは欧米の国々では見られない現象です。さまざまな原因が考えられますが、そこには国際的に比較しても最長といわれる日本人女性の家事時間も大いに関係しているように思います。

日本の年代別・平均睡眠時間(平日)

睡眠の課題が多い日本人ですが、特に、更年期に入った世代の女性で、朝起きたときに「あ~すっきり!おなかすいた~!」と、さわやかな朝を迎えられる人は少ないのではないでしょうか。更年期と眠りの関係を解説する前に、まずは自分の睡眠状態を見てみましょう。睡眠の悩みで多くあがる項目を「3」をキーワードにリストにしました。チェックしてみてください。

  • □ ベッドに入ってもなかなか寝つけない(30分以上)
  • □ 夜中に何度も目が覚める(3回以上)
  • □ 朝すっきりと起きられない
  • □ 起床時、疲れが残っている気がする
  • □ 睡眠不足なのに朝早く目覚めてしまう(目覚ましの30分以上前)
  • □ 日中、何度も眠たくなってしまう(3回以上)

更年期の自律神経が
睡眠時間にも影響

さて、チェックの結果はどうでしたでしょうか? 先ほどのグラフからも、50代女性がもっとも睡眠時間が短いとわかりましたが、これは更年期による不眠も関係しているのかもしれません。

成城松村クリニック松村圭子先生

更年期になるとなぜ、睡眠の質が落ちてしまうのか。これには自律神経が関係しています。自律神経は、昼間に活動しているときに活発になる交感神経と、夜リラックスしているときに優位になる副交感神経の2種類があります。この2つはアクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)のように、バランスを取りながら24時間活動しています。

ところが更年期になると、女性ホルモンの急変動によって自律神経が乱れ、アクセルとブレーキのバランスがくずれてしまいます。夜になっても、昼間に優位になる交感神経が活発に働いたままで、アクセル全開の状態が続いてしまうのです。

言い換えると、気持ちもからだもまるで「戦闘態勢」のような興奮状態が続いているということ。心身をオフにして、ゆったりとリラックスすることが難しくなり、これが睡眠にも影響してしまうのです。寝ようと思ってベッドに入ってもなかなか寝付けなかったり、一度眠っても夜中に何度も目が覚めてしまったり、ぐっすり眠った気がしない、疲れが取れないなど、睡眠の質を下げてしまいます。また、更年期の症状であるほてりや発汗が夜間に起こるために眠りが妨げられている人もいるでしょう。

更年期になると
必要な睡眠時間にも変化が

深刻な不眠は、心にもからだにも悪い影響を及ぼしますが、来院される方の話を伺っていると、“悩みすぎ”な人も多くいます。年齢とともに睡眠時間が短くなり、その質が低下するのは、誰の身にも起こるごく自然なことだという事実も覚えておいてください。

睡眠の最大の役割は「リセット」です。日中に学習した記憶を定着させたり、新しい情報から必要なものとそうでないものを整理したり、感情を癒して安定させるなどの脳への作用があります。からだにおいても、睡眠は皮ふや骨、内臓や筋肉のダメージを補修する、健康を保つための大切なメンテナンス時間です。

これらのリセットがもっとも必要なのは?と考えると、それはこれからぐんぐん成長する若い世代だとわかりますよね。彼らにとって深くて良い睡眠をとることは、からだを成長させるうえでとても重要なことなのです。一方、更年期世代になると、「睡眠の必要量」も少なくなります。もちろん、深刻な不眠の場合はすぐに対策を取ることが必要ですが、「昔のように眠れない」と落ち込んでいる人は、「今はこれくらいでもいい」と楽観的に考えることも私は重要だと思っています。

----次回の【特集】更年期と睡眠の深い関係#02では、不眠がからだに与える影響について、お伝えします。

  • 松村圭子 婦人科医、成城松村クリニック院長。婦人科専門医として、月経トラブルから更年期障害まで、女性の一生をサポートする診療を行う。西洋医学のほか、漢方やサプリメント、点滴療法による幅広い治療方法で、女性のあらゆる不調をケア。小さな悩みごとでも相談しやすく、姉御肌の頼れる女医として人気。『これってホルモンのしわざだったのね 女性ホルモンと上手に付き合うコツ』(池田書店)や『40代からの「女性ホルモン力」を高める簡単ごはん 』(芸文社)など著書も多数。 成城松村クリニック
取材・文/大庭典子
撮影/望月みちか
デザイン/日比野まり子
イメージ写真/shutterstock.com