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  • 2020.08.19

宇宙の知恵を地上に活かす? 新プラットフォーム始動

2020年7月7日の七夕の日。
JAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)が民間企業と連携する新たなプラットフォーム「THINK SPACE LIFE」が始動しました。

「THINK SPACE LIFE」プラットフォームは、JAXAが宇宙からの視点を地上での私たちの暮らしに役立てたいという思いから、新しいビジネスの創出を目的に企画した未来を見据えた試みです。ワコールはインキュベーションパートナーの中の1社として参画。「健康・美しさ・快適さ」をテーマに先進性を発揮されている企業と一緒に『宇宙×地上ビジネス共創ワークショップ2020~宇宙から考える、健康・美しさ・快適さ~』ワークショップを全3回で開催します。キックオフ当日と、ワークショップ(Day1・2)の様子をレポートします。

「THINK SPACE LIFE」プラットフォーム

無重力では、立ったまま寝袋で就寝。寝ごこちは最高!?

七夕に開催されたオンラインイベントは、名付けて「J-SPARC 七夕ライブ」。宇宙飛行士や有識者の計14名が参加し、宇宙生活の特徴や課題などを聞きながら、これからの生活様式や新規サービスのためのヒントを探るのが目的です。

まず、宇宙飛行士・大西卓哉さんから、宇宙空間での生活をご紹介。重力のない宇宙空間では、液体が球体になって空間を飛んだり、バッグを開けると中身が飛び出してしまうということを、映像つきで説明。そのため収納やものの整理・管理が独特です。また、からだの骨や筋肉が弱まってしまうため、1日2時間のトレーングが日課。食事はレトルトや缶詰の食品が中心ですが、大西さんにとっては宇宙日本食がご褒美だそう。からだが浮き上がってしまうためにトイレが使いにくく、これがかなりのストレスだったり、でも「寝袋に入って、立った状態での寝ごこちは最高!」だったり、楽しい体験談も披露されました。

寝袋に入って、立った状態での寝心地は最高!
画像:「JAXA BIZ」Youtubeチャンネルより引用

イベントのパネラーのひとりとして、ワコールからはワコール人間科学研究所主任研究員・坂本晶子が出演。なぜワコールが「宇宙生活」に着目し、商品研究とどう関連していくのか、語った後、宇宙と同じ無重力下で計測したバストの形状の研究結果を紹介。重力・無重力でのバストの形状の変化には、ほかのパネラーやライブ視聴者から驚きの声が上がりました。

ワコールからはワコール人間科学研究所主任研究員・坂本晶子が出演 無重力状態のバスト特徴
画像:「JAXA BIZ」Youtubeチャンネルより引用

宇宙体験から広がる、未来の豊かな生活アイデア

七夕のキックオフイベントから9日後、ワークショップDay1では宇宙飛行士の貴重な実体験を聞ける座談会が開催されました。ワコール人間科学研究所・坂本晶子からは、「無重力の状態では、からだやからだの感覚がどう変化するのか?」という質問を投げかけました。

ワークショップDay1では宇宙飛行士の貴重な実体験を聞ける座談会が開催されました。

それに対して宇宙飛行士の女性ふたりが回答。山崎直子さんは、「背中を丸めて、力を抜いた赤ちゃんのようなポーズをしています。それがいちばんリラックスできるのですが、ゾンビみたいですね(笑)」と回答。また、向井千秋さんは「水の中で立ち泳ぎをしているような体勢」と表現。

向井千秋さん
向井千秋さん

重力がある中での生活が当たり前の私たちですが、宇宙という無重力で閉鎖的な環境では、こうしたからだの感覚だけでなく、多くのことが「当たり前」と異なるようです。座談会と同時進行で寄せられた視聴者からの質問でも、「地球と宇宙との違い」について多く見られました。

たとえば、視聴者からの質問のひとつ「無重力での衣服の着ごこちは?」についてはーー。
「地上では、服の重さがあって着こなしが決まっているんです。宇宙では服も浮いてしまうので、なんとなく気持ち悪かったり。からだに適度な圧がかかることが、場合によっては安心感につながるんです。赤ちゃんをぎゅっと抱くと安心するのと同じですね」(向井千秋さん)

「無重力の宇宙では座高が2〜5センチ伸びるので、服は少し長めのものを着るようにしました。また、体液が上に上がるのでウエストは細くなり、ベルトで調整していましたね」(山崎直子さん)

山崎直子さん
山崎直子さん

「衣服にある程度圧がかかっていたり密着しているほうが、安心感がある」というのは、なるほど無重力を経験した人ならでは。

向井千秋さんは、「地球では、下着はバストアップしたりビシっとしたものが好きですが、リラックスモードのときはまた違います。気分転換しにくい宇宙では、下着のタイプを変えることで、それができるんです」と自身の発見を語ってくれました。

そのほか、「バストもヒップも、頬も、重力で下がったものは上がります」(向井さん)、「宇宙滞在中は乾燥対策としてリップクリームやフェイスクリーム、紫外線対策に日焼け止めを使っていました」(山崎さん)。宇宙船内は湿度が20〜30%代と乾燥しているうえ、窓にUVフィルターはついているものの、紫外線はかなり強いのだそう。こんなふうに大変なことも多い宇宙生活ではあるけれど、「地球では見られない景色が見られるなど、ポジティブに考えるようにしていました」(向井さん)と、メンタルコントロールの話にまで及びました。

2022年以降、宇宙ステーションに搭載されるのは…?

Day2のワークショップは、Day1の座談会で出たさまざまな宇宙体験を元に、参画企業による新サービスや商品のアイデア出しです。70以上の拠点をオンラインで繋ぎながら進行。ワコールは3グループに分かれて、それぞれ活発にアイデアを出し合いました。

Day2のワークショップは、Day1の座談会で出たさまざまな宇宙体験を元に、参画企業による新サービスや商品のアイデア出しです。

さらにはDay3でJAXAやメンターへのプレゼンテーションなどを実施予定(すべてZoomによるオンライン開催)。10月ころには具体的テーマの開発がスタートし、多くの検証プロセスを経てISS(国際宇宙ステーション)に搭載されるのは、2022年以降。宇宙滞在者向けに採用されるのは、どんなものなのか。宇宙でどんな実験がされ、そのアイデアが地上での生活にどう活かされるのか。未来の暮らしを見据えた新プロジェクトのスタートは、わくわく感にあふれています。

取材・文/ワコールボディブック編集部